Research Abstract |
本研究課題に関する平成20年度の成果は,以下の2点に要約される. 第一に,滋賀大学付属史料館所蔵「近江国蒲生郡鏡村玉尾家文書」の撮影と解読が,計画通り進捗したことである.現時点で明らかになったことは,1.現在の近江八幡市の西南に在した農家である玉尾家は,敦賀より魚肥を仕入れる肥料仲間に加盟し,仕入れた肥料を近隣の村々へ販売することを生業としていたこと,2.肥料販売の代価としては,米を受け取ることが多かったこと,3.全ての取引が,大津市場における時価に基づいて行われていたこと,の3点である.玉尾家による肥料販売活動,並びに米穀購買活動が,正確に,大津市場における時価を反映していたという事実は,当該期における市場経済の伸展度を示すものとして特筆に値する.近世日本における経済主体の,価格に対する反応を観察することが,本研究課題の一つの主題であるが,そのための準備作業は想定通り進捗したものと考える. 第二に,近世日本における司法制度の実態解明が進んだことである.当時にあって最も重要な財市場・金融市場であった大坂市場を対象として実証分析を行った結果,大坂米市場においては,米取引を巡る紛糾に関して,江戸幕府が訴権を否定することはなく,一貫して,米に関する財産権を保障し続けていたことが明らかとなった.これにより,大坂米市場が,財市場としてのみならず,金融市場としても隆盛を極めた背景として,江戸幕府による財産権の保護が存在したことが実証されたのである.市場精度の,近世から近代への移行過程を捉えるという,本研究課題の第二の主題に取り組む上で,ここで得られた成果は,重要な基礎作業となると確信する.
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