2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08J10443
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
湯淺 幸代 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 平安時代 / 物語 / 王権 / うつほ物語 / 源氏物語 / 多極構造 / 後宮 / 后 |
Research Abstract |
今年度は、『うつほ物語』に描かれる年中行事や立坊争い、文人の不遇を表す記述など、主として平安初期王権に見られる皇統の問題を検討し、さらに「文章経国思想」への眼差しを含む形で、物語の王権構造を考察する予定であった。実際は、物語の後宮、特に王権の構成要員である后や内親王を中心に、『うつほ物語』に限らず、『源氏物語』や『狭衣物語』など、広く平安時代の物語を検討し、各物語の王権の特徴を見極めていく形となった。結果、「文章経国思想」などを実践する史上の嵯峨朝に比べると、『うつほ物語』に描かれる嵯峨朝は、行事の催行や文人登用の面において、それほど理想的に描かれているわけではない事がわかった。同名の天皇でも、史上の治世とは異なるように描く手法は、『源氏物語』にも見られるが、『うつほ物語』のありようをより先鋭化したものと思われる。また、後宮の采配については、藤壺の立后など、『源氏物語』でも帝の采配が実質的に描かれている部分であるが、物語としては、『うつほ物語』が先蹤であることを改めて確認できた。このように、平安時代物語に描かれる王権を、天皇、后、東宮、摂関などの多極構造として捉える考察は、これまでの先行研究でも不十分であったので、国内外における口頭発表の場で、問題提起し、様々な意見交換ができたことは、発表者・参加者ともに大変有意義であったと思われる。また、学術論文については、これまで主に歴史学の史料として用いられていたものを、文学の読みに資するテキストとして新たに意味づけることができ、文学に留まらない成果を挙げることができた。
|
Research Products
(3 results)