2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08J10464
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井上 愛 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 金春禅竹 / ものすごし / 喜多流仕舞付 |
Research Abstract |
本年度は、金春禅竹作品における「ものすごし」の語を検討することから着手した。禅竹作品の特徴のひとつに特定の語彙の多用が挙げられ、「ものすごし」もまたそのひとつに加えられることを論じた。冷え冷えとした雰囲気を表す「すごし」は、時間帯として夕暮や夜、季節として秋から冬、天候として風や雨の風景に用いられることが多く、『源氏物語』に三十余例使用されている。「すごし」に接頭語がついた「ものすごし」も、意味が重なり合う部分が多い。禅竹作「定家」「芭蕉」「楊貴妃」、くわえて禅竹作と指摘されている「大原御幸」に用いられる当該語は、「ものすごき」風景にシテの心象を投影し、重ね合わせていることを指摘した。「ものすごし」は、荒涼とした風景のなかで一人佇む女性が多い禅竹作品の傾向を端的に表す語であるといえる。今後の展望として2つ挙げる。1つは、「ものすごし」が用いられることで、禅竹作品における修辞の特徴も見いだせるのではないかと考えていることだ。先に挙げた四作品は、「ものすごし」が用いられる前後に漢語が用いられている場合も特徴として挙げられ、漢詩と(ものすごし」が表す相関関係および用法の特徴も探る。もう1点は、「ものすごし」と意味が近接する「ものすさまじ」と「ものすごし」の語の用法を比較検討することである。「ものすごし」は三番目物、「ものすさまじ」は五番目物に多く用いられており、関連性を追究していきたい。 なお、本年度は国立能楽堂蔵宝暦五年奥書『喜多流仕舞付』の調査をし、その紹介と考察を行った。『喜多流仕舞付』に記載された曲目および演出方法は、徳川網吉・家宣時代に起こった稀曲・復曲ブームを反映したものである。本書には、面によつて所作を変えたり(「砧」「雲雀山」)、作リ物の位置や出し入れのタイミングが柔軟性をもつて行われていたりと、幅広い方法がとられていることを指摘した。
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Research Products
(2 results)