2008 Fiscal Year Annual Research Report
医事紛争と医療現場の法社会学的解析研究〜医療の場の対話促進・関係向上を目指して
Project/Area Number |
08J10587
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
上杉 奈々 Yokohama City University, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 医事紛争 / 医事法 / 医療安全 / リスクコミュニケーション |
Research Abstract |
今年度は、医療現場の実状を把握するためにフィールドワークを継続したとともに、分娩関連医療過誤訴訟において児に脳性麻痺・児死亡・胎児死亡が生じた過去30年125事例の判例分析し、平成21年1月より運用スタートした「産科医療補償制度」の運営委員会・原因分析委員会等の取材をしながらこれらの判決事例と本制度の関係性について分析をした。 125事例の判例分析については、(1)125事例総てを対象として法学的観点から訴訟の争点・医療水準より分析しさらに医学的状況について分析したところ、医療過誤訴訟等で危険情報が医療者に共有・周知されることにより当該分野の医学的発展(光線療法の発展等により新生児核黄疸による脳性麻痺事例の減少)やリスク軽減のための学会基準等の策定(子宮収縮剤使用についての医学的適応・容量・方法等)がなされ医療の質が向上している一方、30年間医学的議論の変化のない領域が存在していることが判明し、医療過誤訴訟の医学との関連性が見えてきた。また、(2)最近10年分の判決事例64件を、「産科医療補償制度」の救済枠組(出生児が2000g以上かつ分娩週数33週以上)への適用可能性を分析したところ、棄却判決事例の55%が制度により救済される可能性があることが特筆すべき結果として判明し、本制度により訴訟負担軽減の可能性が示唆された一方で、同様の医学的状況で発生するのは脳性麻痺だけではなく児死亡・胎児死亡もあることから、これらが必ずしも本制度では救済されないために一定程度の訴訟は提起され続けられる可能性があることが考察された。
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Research Products
(1 results)