2009 Fiscal Year Annual Research Report
医事紛争と医療現場の法社会学的解析研究-医療の場の対話促進・関係向上を目指して
Project/Area Number |
08J10587
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
上杉 奈々 Yokohama City University, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 医療安全 / 無過失補償制度 / 医療過誤訴訟 |
Research Abstract |
本邦において発生した児に脳性麻痺・死亡が生じた分娩関連医療過誤訴訟判決事例30年分(126事例)を分析対象とし,2009年より運用開始した本邦初の無過失補償制度である産科医療補償制度における適用可能性と,これら紛争発展可能性の検証ならびに判例から抽出可能な医療安全に資する情報について分析した。 過去10年の判決事例においては,脳性麻痺事例の46.5%に適用可能性があり,これらのうち棄却事例で該当したものは全棄却事例の40.0%を占めており,本制度の補償金支払による迅速な児家族への経済的救済ならびに両当事者の訴訟負担軽減の可能性が示唆され,制度の一定の意義が確認された。一方で,補償要件から外れる事例においては,脳性麻痺の診断時期,児体重・在胎週数などの要因,さらに同様の分娩経過にもかかわらず結果として新生児死亡に至るなどその転帰の差を要因として,補償対象外とされる実状があることが確認された。このように,紛争事例の実情を制度設計の議論の場に還元していくことで,本研究が本制度の社会的意義を促進させる役割を担う可能性が示唆された。 更に,これら判決30年分の分析からは,医療技術の進歩とともに脳性麻痺の発生要因の変化があることが判明し,それとともに法学の分野では訴訟事例における論点め変化と事例集積に伴う判例化にも似たルールメイキングがなされていることが観察され,産科学の分野では,診療とその対応が30年間変わらないまま同種の事故が発生している病態の存在が明らかになりつつある。これらは,有害事象発生時の医療者による患者・家族へ提供すべき情報の同定ならびに当事者間の対話を促す材料となっていくものと考えられる。 今後はこれら判決事例から読み取れる医学的情報を抽出する方法ならびに補完する方法を模索していくとともに,より普遍的かつ有益な情報を医療現場に還元していく医療と法の協働による方法論を確立していく必要があると考えられた。
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Research Products
(3 results)