2009 Fiscal Year Annual Research Report
映画の自由:ドイツにおける映画法・映画助成法を素材として
Project/Area Number |
08J10674
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
阿部 和文 The University of Tokyo, 大学院・法学政治学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 表現の自由 / 検閲 / 映画 / カール・シュミット |
Research Abstract |
本年度は、前年度に引き続きヴァイマール期のドイツにおける映画検閲に関して調査・研究を行ったが、収集され得た資料の状況に鑑みて若干の方針変更を行い、当時の憲法学者カール・シュミットの映画検閲論に焦点を絞って研究を行った。素材としては、シュミットの主著『憲法論』および他の諸論文を精読し、既に収集している当時の資料と比較対照するかたちで研究は進められた。 結論としては、シュミットが映画検閲を肯定した理由は、1)それが非合理的な方式による情報の伝達によって、彼の憲法構想にとって障碍となる集団とくに政党を形成・成長させる要因となりうること、および、2)映画が特定の政治的・宗教的・文化的傾向を有する集団のために制作・上映されることによって集団の結束が強化され、また集団間の対立を生成・強化することによって、彼にとって必須の要請である国家の安定的な存立が脅かされること、にあったと考えられる。 本結論から、現行法の解釈に関して少なくとも次のような示唆が導かれる。1)解釈論として、放送法の内容規制、公共放送の運営は、国民間における過度の集団分化とそれによる公共の安全に対する危険を抑止する意義が存し、その限りで正当化される。2)立法論・政策論として、インターネットの普及による情報環境の変化が「見たいものだけを見る」ことを可能とし、とりわけ過激な思想を信奉する集団の形成をもたらし、現にそうした集団による事件が発生している事態に鑑みて、(検閲のような直接規制ではないにせよ)国民・集団間の対立を暴走させないような情報環境を、メディア横断的に整備していくことが要請される。
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