Research Abstract |
シリコン結晶などの固体の中では原子が規則的に並んでおり、結晶内には空間的な周期霞場が形成されている.このような結晶標的に入射された高速のイオンは,規則的に並んだ原子面を横切ることで周期的な振動電磁場を感じ,光励起と同様に,イオンの内部状態は共鳴的に励起される(コヒーレント共鳴励起:RCE).本研究は3次元コヒーレント共鳴励起による量子制御ダイナミクスの解明,および原子分光,寿命測定への応用を目標として掲げている. 第2年度となる平成22年度は,新たなテクニックとなったコンボイ電子の観測を主柱としてこれまでの成果をより発展させることを目的とし,放医研のHIMACで60時間×4回の加速器実験を行なった.さらに,本研究の将来展望として見通していた,結晶場によるウランの精密分光に向けたテスト実験をドイツ,GSI(重イオン研究所)にて開始した.詳細は以下のとおりである. [1]オージェ電子の観測(放医研HIMAC,平成21年4月,7月) RCEによってAr16+イオンの二重励起状態を生成し,前方に放出される電子の運動量スペクトルを観測したところ,コンボイ電子の両側に2つのサブピークが観測された.これはそれぞれ前方,後方に2.3keVで放出されたオージェ電子とアサインでき,二重励起の生成を実験的に確証した. [2]アラインされたイオンのコンプトンプロファイルの観測(放医研HIMAC,平成21年9月,12月) RCEにおける偏光制御テクニック(Y.Nakano et al., Phys.Rev, Lett.102, 085502(2009).)を利用し,進行方向にアラインされたイオンから放出されるコンボイ電子の測定を試みた.理論で予測されている逆カスプ型の電子運動量スペクトルを実際に観測するために,50keV電子を検出するアバランシェ・フォトダイオード(APD)を利用したセットアップを新たに開発した.現在データを解析するとともに,ハンガリーの理論グループのシミュレーションと合わせた考察を行なっている. [3]ウランの精密分光(ドイツGSI,平成21年9月) 最も重い安定元素であるウラン(原子番号92)の精密分光を目指し,ドイツ・GSIに新たな実験装置を立ち上げた.195MeV/uのLi様U^<89>イオンにおいて,1s^22s→1s^22p_<3/2>遷移のRCEを観測することに成功し,最新の結晶分光器と同等の分解能を出せることを実証した.今後,蓄積リングを利用した電子冷却等を活用することで更に精度が向上すると考えられ,次期加速器計画FAIRにおいても優れた成果が期待される.
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