2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08J10778
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂田 綾香 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 理論進化 / スピングラス / 交換モンテカルロ法 / 相転移 / フラストレーション / レプリカ法 / 二重平均の統計力学 / Partial Annealing |
Research Abstract |
(1)表現型と遺伝子型という、異なる時間スケールを持つ二つの自由度が相互作用する系として進化をとらえ、スピン系の上でモデル化することで統計力学的な議論を行った。進化の過程における二つの自由度の揺らぎ(温度)と、進化後の平衡状態の関連を、表現型(スピン)と遺伝子型(スピン間相互作用)による「二重平均の統計力学」として研究した。2008年度は、「相互作用の温度依存性を特徴づける有意な物理量は何か」ということを主なテーマとして研究に取り組んだ。モデルの数値計算を通して、相互作用をフラストレーションにより特徴づけることで、温度依存性に関する議論が明確になることを示した。スピン温度が中間温度の場合、機能的に重要である部分に関しては、フラストレーションの存在しないエネルギーランドスケープが実現していた。これをlocal Mattis stateと定義し、そのエネルギーランドスケープがノイズに対してロバストな表現型発現ダイナミクスを与え、さらに副産物として変異に対するロバストネスも獲得することを明らかにした。また中間温度でのlocal Mattis stateの実現を理論的に説明することに成功した。このモデルにおいて中間温度で観測されたlocal Mattis stateは、タンパク質やRNAの折りたたみのダイナミクスや、遺伝子発現の問題で見られるfunnel型のダイナミクスに非常に似たダイナミクスを与える。このように、様々な場面で見られるfunnel型ダイナミクスは、ノイズが存在する環境下での進化により獲得されたものではないか、という可能性が本研究を通して示唆された。これらの結果を複数の学会で発表し、レター論文として掲載予定である(A.Sakata,K.Hukushima,and K.Kaneko,Phys.Rev.Lett,(2009)in press)。現在さらに本論文を作成中である。 (2)二温度・二自由度・異なるタイムスケールを持つ系として提案されている、Partial Annealing系と呼ばれるモデルの拡張として、上記の進化のモデルがとらえられるという点に着目し、Partial Annealing系においてフラストレーションの振る舞いを解析的・数値的に明らかにした。Partial Annealing系の平衡状態は、有限レプリカ数の系に対応し、最も簡単な二重統計の統計力学の枠組みを提案している。数値計算の結果、Partial Annealing系においては、スピン温度が低温であるほど、フラストレーションの現象がみられることがわかった。また、フラストレーションはスピングラス転移点を境にクロスオーバーを起こす、という定量的な性質を見つけた。これらの結果を複数の学会で発表し、現在論文を作成中である。
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Research Products
(9 results)