2009 Fiscal Year Annual Research Report
近世日本倫理思想史における自己と他者の関係性をめぐる研究―近現代への架橋に向けて
Project/Area Number |
08J10811
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
栗原 剛 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 倫理学 / 日本倫理思想史 / 他者 / 信と知 / 近松門左衛門 / 人形浄瑠璃 / 心中 |
Research Abstract |
本研究は、近現代の日本思想が、西洋文明の影響下に大きく転回していく直前、すなわち近世日本の諸思想に注目し、これを自己と他者の関係性をめぐる倫理思想史として再把握するとともに、続く近代思想との間を、新たな連続性によって架橋し直すことを目指すものである。前年度に儒学思想を扱った成果を踏まえ、今年度は近松門左衛門による人形浄瑠璃、とくに男女の心中死を扱った作品群を、新たな研究対象として選定した。その典型的なモチーフは、元禄期の大坂に生きる町人が、遊女との許されない恋に落ち、家族や社会との葛藤の中で、最後には共に死する道を選ぶ、というものである。男女は、仏に対する(あるいは互いに対する)<信>を、互いが恋に殉じて死する、という<行>そのものによって、証し立てる。ところが他方、恋や情の表現である<行>と、道理や義理に向う<知>とは、どこまでも対抗的に捉えられている。対抗する<行><知>のうち、あくまでも恋する思いに正直な<行>を選びとることによって、彼らの<信>は、その表現として確かな形を得るのである。<行><知>が統合される儒学的な自他関係においては、自他間の「愛」、あるいは自己意識としての「志」などが実現し、それが安定的な社会秩序へと展開された。しかし<行><知>が背反する「恋」の自他関係において、両者の調停や統合は、最終的に拒絶されるのである。従来、町人文学の描いた恋の倫理と、おもに武士が担った儒学の倫理とは、私的な恋愛と公的な社会秩序という、単純な対立図式で語られることが多かった。これに対して本研究は、<信><知><行>という分析概念を採用することにより、二つの思想世界を、単純な対立図式によることなく、自他間の倫理という一般的な枠組みの中で理解し、両者に通底する近世的な自他関係の特徴をあぶり出す道を開いた。次年度はその課題に取り組むと同時に、近代以降の倫理学に対しても新たな視点を提供することを目指す。
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Research Products
(2 results)