2008 Fiscal Year Annual Research Report
徂徠学以後の近世日本儒学の展開について-寛政正学派と水戸学との関係を中心に-
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08J10822
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高山 大毅 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 荻生徂徠 / 文人 / 會澤正志齋 |
Research Abstract |
本研究が主要な対象としているのは、(1)徂徠学派の中の詩文派と称する人々の流れ、(2)上方の反徂徠学的な儒者の流れ、(3)徂徠の礼楽論を淵源とする「制度」論者の流れ、の三つである。20年度前半は、(3)の流れの輪郭を浮かび上がらせるために、(3)を代表する学者である會澤正志齋の思想と朝鮮の丁茶山の思想を比較した。これによって同じ『周礼』に依拠した「制度」構想でも、正志齋の思想は、「制度」を人心収攬の「仕掛け」と捉える傾向を強く有していることが明らかになった。また台湾の著名な研究者である黄俊傑氏の著作を翻訳し、(3)の流れに対する海外の研究者の評価を検証した。これらの作業によって、東アジアという広い視野から見ても、(3)の流れは特異であり、江戸儒学特有の思潮と見做すことが出来ることが明らかになった。 20年度後半は、(1)の流れについて研究した。従来、徂徠学の文芸論は、朱子学の「勧善懲悪」的な文学観から自己の感情の表現を解放したものであると位置づけられてきた。しかし、徂徠の経学著作を検討することで、徂徠の関心は自己の感情の表現ではなく、様々な立場の典型的な感情の理解にあることが明らかになった。また徂徠学において、古代の統治者たちは格言や詩を引用しながら対話したとされており、このような説が典拠表現を多用する徂徠学派の文芸の背後にあることが分かった。共通の教養に基づいた表現の愛好は、仲間意識を軸とする文人社会を生み出し、以後の時代の学問や文芸に大きな影響を与えた。この研究の意義は、18世紀前半に流行した徂徠学派の文芸の特質を内在的に考察したことにある。これまで徂徠学派の文芸は、近代文学へ至る過渡期の産物とされ、同時代の人々にとってそれがなぜ魅力的であったかについて十分な分析が行われてこなかった。本研究は18世紀以後の近世日本の学問や文芸を理解する上で、基礎となる視点を提供するものといえる。
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Research Products
(1 results)