2009 Fiscal Year Annual Research Report
フェルミ面トポロジーの変化による量子臨界異常と新奇量子相の形成機構の解明
Project/Area Number |
08J10867
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山地 洋平 The University of Tokyo, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | フェルミ面トポロジー / 高温超伝導 / 電子相関 |
Research Abstract |
本年度の研究では,モット絶縁相近傍に特有の低エネルギーの電荷励起構造から,高温超伝導銅酸化物で観測されるフェルミ面トポロジーの変化とそれにともなう新しい量子の形成や,いわゆる擬ギャップ的な粒子励起の振る舞いを理解する理論の構築を行った.銅酸化物の典型的な模型の一つ,ハバード模型を出発点として,強相関金属の記述に適したKotliar-Ruckensteinによるスレイブ・ボソン形式を適用した.従来の理論的取り扱いでは,Kotliar-Ruckensteinによって導入されたスピン自由度および電荷自由度を記述するボソン粒子に平均場理論を適用し,ボーズ-アインシュタイン凝縮成分として扱っていた.本研究では,準粒子励起と,モット絶縁体近傍に生起する電荷の量子ゆらぎに対応するボソン粒子(ホロンと呼ばれるモット絶縁相近傍に現れる"正孔"や二重占有原子軌道を表すボソンであるダブロン)との結合を取り入れ,新しいフェルミ粒子型の"励起"を導入した.この新しいフェルミ粒子的励起が準粒子と混成することで,フェルミ面のトポロジーの変化が自然に生じる.結果として少数の正孔がドープされたモット絶縁相近傍に現れる小さなポケット状のフェルミ面は,角度分解光電子分光の観測と一致する.また,混成によって逆格子空間の一部に生じた直接(光学)ギャップによって,実験的に観測されているフェルミ準位近傍の電子状態密度の抑制(いわゆる擬ギャップ的な振る舞い)や,トンネル電子分光で見られる電子-正孔非対称が自然に理解できることが明らかになった.また,新しいフェルミ粒子的励起の存在が,一般的な金属を記述するフェルミ液体論からの破れをもたらす可能性がある.すなわち,フェルミ液体について熱伝導と電気伝導との間に成り立つWiedemann-Franzの法則が破れる可能性がある.銅酸化物の一部で既にWiedemann-Franzの法則の破れが報告されており,今後の実験から本研究の予測が裏付けられることが期待できる。
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Research Products
(4 results)