Research Abstract |
公での音楽演奏場面で演奏者に引き起こされる演奏不安は,多くの演奏家を悩ませる深刻な問題であり,その適切な対処法を探ることは急務である。本研究では,運動生理学・心理学・神経科学を組み合わせた学際的アプローチを用い,不安喚起がピアノ演奏のパフォーマンスに及ぼす影響について包括的に検討し,教育場面で役立つ実践的知見を得るとともに,情動が身体運動に影響を及ぼす機構の解明に寄与することを目指している。本年度は,「研究実施計画」に記載の通り,実際のコンクール場面における高い心理的ストレスが熟練ピアノ奏者の心理/生理的状態及びパフォーマンスに及ぼす影響を検討したデータの成果発表に力を入れた。「神経科学と音楽III」では不安による筋活動の増大,「第10回国際音楽知覚認知会議」では生理的覚醒水準上昇こよる演奏テンポの加速,「日本心理学会第72回大会」では心拍数の条件間比較及び経時的変化のデータを発表した。また,「演奏家とダンサーの医学的問題」や「Motor Control研究会」等の数多くの研究集会に出席し,幅広い分野の研究者と有意義な情報交換を行った。研究発表と並行して,コンクール実験データのより詳細な分析も進めた。心拍数の算出に加え,心拍変動のスペクトル解析をすることで,ストレス下におかれたピアノ奏者の自律神経系のバランスを推定することが可能となった。また,講師を招いて勉強会を開き,MATLABプログラミングを習得した。そのプログラミング技術を生かし,単なる筋活動強度(筋電図平均振幅)だけでなく,主働筋と拮抗筋の共収縮の指標や,独自に開発した筋の脱力状態の指標を算出し,個人差も含めて分析を進めた。筋活動の詳細な分析により,質問紙研究が中心だった従来の演奏不安研究よりも,実践場面において直接的に役立つ知見が得られつつある。
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