2008 Fiscal Year Annual Research Report
古代ローマとその近隣諸国:前3世紀から後2世紀地中海世界諸国の国家構造と対外政策
Project/Area Number |
08J11154
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 雅之 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ローマ / 第二次マケドニア戦争 / 紀元前二〇〇年晩秋 / ロドス / ペルガモン |
Research Abstract |
本研究の当該年度における研究計画は、当初は平成20年12月までにペルガモン、ロドスについての主として碑文史料読み込みを進め、翌月よりセレウコス朝、パレスティナ方面の同様の史料を分析していくというものであった。そのためこの年度における基本作業は、ペルガモンとロドスの年代記史料と碑文の読み込みにあった。そしてこの作業の中で、先行研究がその重要性にもかかわらず十分な分析を進めていない点が、第二次マケドニア戦争についての年代記史料の中にあることを発見した。それはローマが晩秋という、明らかに通常とは異なる時期に開戦したことを示す、事件の時系列再構成と各出来事の意味を捉える上で考察が不可欠な論争に関わる問題点であった。 ローマによる紀元前200年晩秋の派兵は、新たな戦争には相応しくない国内的・時間的困難を数多く抱えながらという、他の戦争にはない特異性を帯びたものであった。しかしローマは派兵がまだ実現できない段階から活発な外交を展開する。マケドニアに対しそれまで両国の問題の中心にあったフォイニケ和約に依拠しない、ギリシア人とローマの派兵を支持・要請する国々との不戦を要求し、かっその声明をギリシア各国に周知させることで、ローマは東方世界に進出するに当たって拠って立つ正当性の基盤を示した。こうした外交は、ローマが晩秋になってでも前200年中の派兵を急いだことをも説明する。そしてそこで見出されるのは、派兵を前提とした外交でその存在感を示すことにより、マケドニアをロドスやペルガモンその他との戦争に集中できなくさせ、開戦のそもそもの根拠であるマケドニアとの交戦国を維持・拡大していくという構図である。 以上のような問題への取り組みにより本研究は当初の計画を一部変更してこの問題への探求に本年度の半分程度の時間を費やすこととなった。この研究の成果は「史学雑誌」へと投稿され、現在は審査の最中である。
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