2008 Fiscal Year Annual Research Report
中世トリスタン物語の侍女ブランジアン像-物語論的機能と社会史的実像についての研究
Project/Area Number |
08J11225
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上杉 恭子 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | フランス文学 / 中世文学 / トリスタン伝説 |
Research Abstract |
本年度は、研究指導委託によりパリ第3大学ローランス・アーフ教授のもとで研究を進めた。中世フランスの韻文及び散文の「トリスタン物語」の中に、王妃イズーの侍女ブランジアンの姿を丹念に追った成果は、2008年9月、同大学に提出されたMaster2課程論文<<Le personnage de Brangien dans les romans francais de Tristan:identite,fonction et evolution>>に結実をみる。この論文では、1.ブランジアンを指し示す単語に対する語彙・語用論的検証を通じ、彼女と中世文学特有の類型化した"侍女demoiselle"との共通点と相違点が、特に女主人との関係性の面から明確化された。2.語単位で示唆されたブランジアンの働きを、実際に描かれる言動の中に実証し、その過程で、彼女の態度の相次ぐ豹変を描く場面について、聴衆に対する叙述上の効果にも言及しつつ、従来以上の一貫性を持たせて読み解くことに成功した。3.韻文から散文への移行において、ブランジアン像の本質は初期に確立されていることを明らかにし、一方、その不変的本質に付与されるアレンジが、彼女以外の登場人物たち、ひいては伝説自体に生じた抜本的変化を浮かび上がらせ得るとの可能性を示した。本論文の丁寧なテクスト分析と読解のプロセスは指導教官からも好評価を得ている。11月には、日本フランス語フランス文学会2008年度秋季大会において、上述の論文より1.の内容を中心に研究発表を行った。この発表を通しては、他作品・時代の研究者とも、文学に表出する他の主従関係との関連、及びそれらの包括的研究の必要性について意見交換を持つことができ、本研究の掲げる類型論的試みに関し、より広範な展望が示されたと言える。また、この発表に基づく論文は学会誌に投稿され、現在査読結果待ちである。
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Research Products
(1 results)