2008 Fiscal Year Annual Research Report
装飾と前衛(1885-1935):西欧近代美術史観の批判的再定義に向けて
Project/Area Number |
08J11228
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
米田 尚輝 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 表象文化論 / 芸術学 / 美術史 / 建築史 / デザイン史 |
Research Abstract |
本研究の長期的展望は、パリ装飾芸術美術館およびフランス国立図書館で渉猟した文献を主たる資料体とした、アール・ヌーヴォー、アール・デコからモダニズムヘ、という流線的な歴史観に基づいた支配的な図式の批判的な考察である。本年度は、以下の二つの側面から研究を進めた。 1) 建築家ル・コルビュジェに対するスイスのラ・ショー・ド・フォン工芸学校の教師シャルル・レプラトニエの教条的教育の影響を、その形成期からピュリスムの絵画活動へ至る過程を通しての検討。アーツ・アンド・クラフツ運動の推進者のひとりであるジョン・ラスキンや、装飾芸術に関する重要な技法書を出版していた装飾家オーウェン・ジョーンズの思想が、ル・コルビュジェの絵画制作にどのような仕方で関連を持っていたのかを分析した。そこで提出したのは、1920年代のル・コルビュジェの絵画制作に明確に見出すことのできる建築図面との形態上の類似は、レプラトニエによるデザイン教育の理念とジョーンズの図案集から直接的に由来するという見解である。 2) 1900年のパリ万国博覧会にひとつの興隆を見るアール・ヌーヴォーが自然主義という点で非難されていたという背景を顧みつつ、装飾家、デザイナー達に主要な源泉として参照されたドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルの装飾図版集を検討した。過激なダーウィン主義者として知られるヘッケルの『自然の芸術形態』(1899年)は、実のところ、装飾芸術、建築、デザインの領域でこそ正確に受容されていた。とりわけルネ・ビネの設計によるパリ万博のエントランス門の予備的デザイン画を精査し、そこにヘッケルの素描群に見出されるその高度な対称性と平面性が、「自然」の形態が知覚の水準において範例として機能していることを示した。
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Research Products
(2 results)