2009 Fiscal Year Annual Research Report
装飾と前衛(1885-1935):西欧近代美術史観の批判的再定義に向けて
Project/Area Number |
08J11228
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
米田 尚輝 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 美術史 / 建築史 / 表象文化論 |
Research Abstract |
本年度の研究の主たる目的は、ル・コルビュジエの初期に展開された事象を詳細に検討することであった。すなわちル・コルビュジエが最初の住宅を建てた1905年から、パリに移る直前に同地で最後の作品を実現した1916年までの約10年に受けた教育がその後の芸術営為に与えた影響である。本年度の成果は、具体的には以下の3点にまとめられた。(1)ル・コルビュジエの1910-20年代のピュリスム期における絵画の特質である建築図面との形態上の類似に関する考察。1921年に「ピュリスム」の宣言が打ち出されて以来、1920年代中頃の絵画作品に顕著に見出される平面図とのアナロジーを、1910年代の正統的な静物画と見なされていた絵画作品からその萌芽的性質を引き出した。また、建築図面が内包する論理が必然的に要請するイメージの歪曲を、絵画の構造においても見出されることを指摘した。(2)ル・コルビュジエがスイスのラ・ショー・ド・フォン工芸学校おいて受けた教育と、時計装飾職人としてのデザイナー活動から、可塑性と柔軟性を特質とするアール・ヌーヴォー建築に対する姿勢を描き出した。オーウェン・ジョーンズとウジェーヌ・グラッセを始めとして、同時代の工芸家のために立て続けに出版された装飾技法書の役割に着目し、ル・コルビュジエとグラッセのデザイン画を分析することにより、その思想的影響関係を明確化した。(3)ドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルがアール・ヌーヴォーに及ぼした影響の検討。ルネ・ビネによってデザインされた1900年パリ万国博覧会の入場門が、その対称性と平面性を保持していた造形的な側面においてヘッケルのデッサン集『自然の芸術形態』(1899-1904)を基に制作されたことを、ヴィオレ・ル・デュクをはじめとする建築学の分野で興隆していた生物学的メタファーを用いた言説との関連ともに検証した。
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Research Products
(2 results)