2009 Fiscal Year Annual Research Report
藝術とその正当性:決疑論と萌芽期美学の思想連関を検討主題として
Project/Area Number |
08J11239
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森元 庸介 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 美学 / 道徳神学 / 教会法 / 決疑論 / フランス:イタリア:スペイン |
Research Abstract |
ヨーロッパ近世の決疑論において藝術、とくに演劇にいかなる位置が与えられたかを調査するという綜合課題のもと、平成21年度は、とくに以下の二点について検討した。 1演劇に対する寛解的な立場と並行しながら、主として16世紀以降に決疑論内部で拡大した厳格的な立場について調査を行った。この立場は、行論上は、アウグスティヌスやヨハネス・クリュソストモスなどの教父文学の伝統への回帰傾向によって特徴づけられ、理論的な新味はむしろ乏しい。だが、演劇が観客に及ぼす実質的な影響を強調するその議論は、虚構としての藝術という通念に対するラディカルな批判になると同時に、逆説的にも作品の効果を高く評価する結果へと逢着する。本年度をつうじて、プリエリオ、パオロ・コミトリ、ホアン・ド・サラスといった神学者たちの文献を調査し、この理路の継承過程を具体的にあとづけた。 2同時に、寛解的な議論の展開について引き続き調査をおこない、とくに停思快(delectatio morosa)の概念が演劇に固有の快の概念へと転用される過程を明らかにした。(悪をめぐる)純粋な思惟の快は免罪されるとしたトマス・アクィナスの議論を換骨奪胎しながら、カイエタヌスからペドロ・デ・ロルカ、エスコバルといった神学者たちが、純粋な表象の快を肯定するに至った理路を解明し、その背後に、アヴェロエスの註解を介したスコラ学に固有のアリストテレス『詩学』の理解が伏在していることを望見した。 先年度に引き続き、史料体の整備を中心とする基礎研究に注力した結果、成果公表に至らなかったことは痛恨というほかないが、今年度の集中的な発表をようやく視野に収めるための内容は得られたと考える。
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