Research Abstract |
『阿闍世王経』の編纂事情ならびに他典籍との関連について解明を進めた. まず,『阿闍世王経』第12章にあらわれる「燃灯仏授記」の記述について,『六度集經』(大正蔵No.152)第86経「儒童受決經」の末尾付近の記述との間に並行表現が見られ,両者の間には編纂上の関連があることを明らかにした.また,他の典籍にも広く確認される「燃灯仏授記」の記述とも比較したところ,両経に共通する燃灯仏授記にちなんだ造塔の記述は特殊であることが明らかになるとともに,『六度集經』と『阿闍世王経』の間で「大乗化」と言える現象が確認できる。 次に,『阿闍世王経』第5章冒頭にあらわれる,「非如理作意」(ayonisomanasikara)を因とする煩悩生起説については,従来,『宝性論』と関連する如来蔵思想関係の典籍や説一切有部の典籍での用例が知られていたが,これまで指摘されていなかった大乗経典における用例を調査,検討した.その結果,如来蔵思想との関わりが指摘されていない複数の大乗経典にも同説が確認され,中でも文殊系経典における用例が目立つ結果となった.また,『阿闍世王経』を含め,羅什以前の古訳の経典にも同説が複数確認できたことで,同説が比較的早い段階で大乗経典に導入され,伝承されていった可能性が考えられ,その痕跡の一部を認めることができた. また,『阿闍世王経』をはじめとして多数の大乗経典において,主人公の一人として登場,活躍する文殊(Manjusri)の漢訳語について,古訳経典での用例を中心に,それらの訳語がとれられるようになった事情なども考慮しながら調査,整理した.
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