Research Abstract |
研究の背景 様々な先行研究によって,抑うつが自責感と強い関係があること(e.g.,Biaggio&Godwin,1987),うつ病者は突発的な怒りや興奮状態を示し,特に近親者に対して怒りを表すこと(Painuly,Sharan,&Mattoo,2005)などが知られている。これらの結果を踏まえて行った研究によって,怒りをあらわす対象者や怒り発生・表出状況に関して,特に怒り発生から攻撃行動発生までの間の時間の経過を加味した上で,細かく検討していく必要があると考えた。当初は怒りが喚起された後少し変化した状況での反応に焦点を当て,状況の変化により抑うつ者の怒り表出の違いを調査する予定であったが,新たにイライラや気分の変動をもつ非定型うつ(樋口,2008)という視点を取り入れ,抑うつのサブタイプを詳細に検討した。 研究1 質問紙で測定できる攻撃性のうち,パーソナリティとして個人が持っている特性的攻撃性と実際の攻撃表出に関する状態的攻撃性を別々にとらえ,そのそれぞれと抑うつとの関係に差異があるか検討した。その結果,1)抑うつの高低に関係なく,特性的攻撃性のひとつである怒りやすさは状態攻撃性の怒りと強く関連しており,2)状態的攻撃性のひとつである怒りは攻撃表出に関連していること,3)抑うつの高い人は特性的攻撃性が攻撃表出に強く関与しているが,抑うつの低い人はあまり関与していないことが示唆された。これらの結果から,抑うつの高い人に特異的な攻撃表出のモデルがある可能性が考えられた。 研究2 研究1の結果から,抑うつの高い者の中でも異なった攻撃表出のタイプや特に怒りが強い者がいる可能性が考えられた。そこで抑うつのサブタイプに着目し,抑うつにおける攻撃性のサブタイプを検討することとした。抑うつと特性怒りの両者が高い者,低い者,どちらかだけが高い者というサブタイプわけを行い,怒りに対する反応傾向に,それぞれ特徴が見られるか探索的に検討した。その結果,1)怒り反応傾向のうち短気と身体的攻撃は,特性怒りの強さに影響されている可能性があること,2)怒り反応傾向のうち敵意と言語的攻撃は,特性怒りではなく抑うつの強さに影響されている可能性かおることが示唆された。この研究により,抑うつの中に攻撃性によるサブタイプがある可能性と,抑うつの高い者においても攻撃性のサブタイプにより攻撃表出の仕方に違いが見られることが示された。
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