2008 Fiscal Year Annual Research Report
文学における自我表象の研究-日本近代文学におけるバイロン受容を中心に
Project/Area Number |
08J11346
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菊池 有希 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | バイロン / 北村透谷 / 木村鷹太郎 / ロマン主義 / 教育 / 比較文学 / 影響および受容 / 自我 |
Research Abstract |
本年度は、これまでの「日本近代文学におけるバイロン受容」に関する研究成果を足がかりに、より一般的な「文学における自我表象の研究」にまで発展させてゆく予定であったが、明治期を中心に主要な雑誌のバイロン言説の資料調査を行なった結果、雑多なバイロン言説を整理し自分なりに秩序づける必要を認識するに至った。そこで本年度は、当初予定の研究の進度を緩め、バイロン言説の通時的な精査に専心することにした。 まず、明治20年代半ばまでの主要なバイロン言説を検証した結果、論者がバイロンに対する主体的な関心を強めてくるにつれて、彼らの描き出すバイロン像が、バイロンの外面的な政治性に焦点を当てたものから、バイロンの厭世的な内面に焦点を当てたものに変質していることがわかった。のみならず、バイロンに惹かれる論者自身の内面への眼差しも同時に強まっており、このバイロン熱の「内攻」とても呼ぶべき傾向は、バイロンを「厭世詩家」の典型として描き出した「厭世詩家」北村透谷において極点に達している。 次に、透谷の死後、即ち明治後期のバイロン言説の検討も行ない、「内攻」の極点に達したバイロン熱が徐々に緊張の度合いを解いてゆく過程を明らかにした。本年度は、明治後期を代表するバイロン受容者の木村鷹太郎を特に取り上げ、木村が排外的日本主義の立場を鮮明にしてゆく中で、彼の描き出すバイロン像が、単なる反キリスト教の悪魔詩人として平板化されてゆくさまを明らかにした。 また、中国四国イギリス・ロマン派学会シンポジウムでの発表をきっかけに、透谷の「教育」論について考察を試みた。その結果、透谷の広義の教育論が、教育者の悲愴な自我による被教育者の自我の喚起という点に眼目を置いたものであることが明らかになった。本研究は、バイロン受容の研究と自我表象の研究の中間に位置するものであり、今後研究を進めてゆく上で幾つかの有益な示唆を得ることができた。
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Research Products
(4 results)