2008 Fiscal Year Annual Research Report
近世日本社会における町人思想その様相と行方-懐徳堂と東アジア諸地域
Project/Area Number |
08J11376
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
清水 光明 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 日本思想史 / 儒学 / 徳川日本 / 町人思想 / 懐徳堂 / 東アジア |
Research Abstract |
今年度(2008年度)は、徳川日本の懐徳堂周辺の諸思想・言説を中心に、一次史料と二次文献の両面から読み進めていった。その際、とくに後者(二次文献)については、日中比較や日韓比較の視点を取り入れたものをより多く読むようにした。そして、これらの作業と同時並行的に、町人学者・富永仲基について論じた修士論文を、投稿論文に仕上げるための作業を進めた。 こうした一連の作業を進めるなかでの収穫は、町人思想や懐徳堂を考える際の新しいアプローチを思いついたことである。それは、公家社会との接点である。すなわち、町人思想というと、従来は武家社会との距離に注目されがちだが、それだけではなく公家社会との関係にも注意する必要があるだろう(そもそも、町人学者の多くが、京都・大坂周辺で活躍している)。 この観点から、中井竹山の学校論-彼が、京都の公卿・高辻胤長の依頼を受けて作成・提出した『建学私議』-を取り上げ、「禁裏・公家社会の周辺(京都)に学校という〈場〉を構想し設けるということ」には一体どのような意味・背景があったのか、という点を考察した。なお、これは、町人思想の観点のみならず、儒学の学校論を考える際にも従来の研究にはなかった切り口である。 さて、この考察については、夏に近世史研究会で報告する機会を得、様々なアドヴァイスや批判を頂くことができた。とくに、今後、「家職」(「公家家業」)についてもう少し見解を深める必要がある(そして、この点は、町人思想にも少なからず関わってくるだろう)。 また、この機会がきっかけとなって、多くの近世禁裏・公家社会関係の研究者と知り合うことができた。町人学者の生きた近世の京都・大坂の「土地勘」をつけるためには、彼らとの交流は非常に有益である。今後の研究に活かせればと考えている。秋には、宮内庁書陵部で史料調査を行った。この考察は、なるべく近いうちに論文のかたちにして発表したいと考えている。 他方で、今年度の反省点と今後の課題は、論文であれ学会報告であれ、より発表の機会を増やすことである。前述した研究会報告以外では、今年度は、仲基についての投稿論文を一本、今年度末ギリギリになって一応完成し提出することはできた。が、今年度は、概して、表に出て発表する機会は少なかったと言わざるを得ない。 来年度以降は、今年度に得た蓄積や助言・批判等を活かしつつ、幕末・近代以降も視野に入れながら、引き続き一次史料と二次文献を読み進めていきたい。また、博士論文全体の構想についてもそろそろ具体化する必要がある。そして、これらの作業を踏まえつつ、まずは個々の具体的なテーマについて、投稿論文や学会・研究会報告等で一つ一つ形にして外へ出してゆくことを課題としたい。
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Research Products
(3 results)