2008 Fiscal Year Annual Research Report
ウィルフリッド・セラーズの認識論とその現代的意義の解明
Project/Area Number |
08J11399
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石田 崇 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ウィルフリッド・セラーズ / 認識論 / 思考の言語モデル仮説 / 機能役割意味論 / 経験 / 非推論的知識 |
Research Abstract |
セラーズの認識論の解明において根幹的な概念が「経験」であり、その概念を思考の特殊形式と位置づけるユニークなセラーズの概念理解が彼の認識論の中核にあると私は考え、この概念を用いたセラーズの認識論の分析に当たった。その部分的な成果を私は本郷形而上学クラブが主催する第八回国際会議にいおいて「Sellars'account of non-inferential knowledge」という題目の下、発表した。この発表で明らかになったことは、この発表で扱ったセラーズの中期の論文では、(1)いかにして我々は命題内容を伴った経験的信念を獲得するに至ったのかという発達心理学的な問題と(2)経験的信念はいかにして正当化されうるかという問題、また、我々が持つ概念の先行関係についての問題が明晰に区別されないまま議論されていることが明らかになった。特にセラーズは、後になって、概念的先行関係は既に言語習得した大人において成立するだけではなく、言語習得以前の幼児においても成立しているという主張をしたため、彼の立場は困難を極めた。この問題はセラーズが後に展開する機能役割意味論という意味の理論において同時並行的に扱われる思考と言語がいかなる関係を持つかというところに最終的に帰着するが、私の考えではセラーズが後期に標榜する機能役割意味論は、中期の思考の言語モデル仮説と上手く整合しないのである。なぜならば、思考の言語モデル仮説は人間の言語使用をモデルに取った大人の人間の思考に関する仮説であり、これと同じ高次の言語を習得していない幼児や動物には、同様の仕方で思考を帰属させることはできないからである。最終的にこの考えは論文として結実しなかったが、この路線でセラーズを読解する研究者はおらず、従って私の研究は大変有意義なものである。
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