2008 Fiscal Year Annual Research Report
感染宿主細胞の分化と連動するヒトパピローマウイルス複製機構の研究
Project/Area Number |
08J11478
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
中原 知美 National Institute of Infectious Diseases, 病原体ゲノム解析研究センター, 特別研究員(PD)
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Keywords | パピローマウイルス / DNA損傷修復系 / ウイルスゲノム複製 / ATM |
Research Abstract |
高リスク群ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus;HPV)は、子宮頸癌の原因ウイルスである。HPV生活環は、感染標的細胞である表皮の形成と密接に連動しており、表皮細胞の分化に応じてウイルスゲノム複製を3段階に切り替える。ところが、このようなHPVの生活環を支える分子機構は不明な点が多い。ウイルス複製の全貌を明らかにすることにより、ウイルス複製を抑制し、癌の原因を取り除くことが期待される。本研究では、ウイルスゲノム複製と宿主のDNA損傷修復系との相互作用に注目した。 まず、ヒトパピローマウイルス複製のモデルとして、ウシのパピローマウイルスを潜伏持続感染状態で維持する細胞株を解析した。結果、ウイルスゲノムを維持している細胞では、宿主細胞のDNA損傷応答系のひとつであるATM系が活性化していることを見つけた。ATM系の活性化がウイルスのゲノム複製に与える影響を検討するため、ウイルスゲノムを維持する細胞に、DNA損傷応答系の阻害薬を処理したところ、ウイルスゲノムの複製が充進るすという結果を得た。すなわち、ウイルスのゲノム複製は、細胞のDNA損傷修復系の活性化によって、抑制されることを明らかにした。さらに、RNA干渉法を用いたノックダウンにより、ウイルスゲノム複製の抑制にはATMが重要な役割を果たすことを明らかにした。感染性ウイルス粒子を用いた感染実験でも同様の結果をえた。このことから、宿主のDNA損傷修復系は、ウイルス感染直後から活性化し、ウイルスのゲノム複製を抑制することが分かった。パピローマウイルスのゲノム複製が、潜伏感染状態であっても、宿主のDNA損傷修復系に異常と認識されることは、新しい知見である。
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