2008 Fiscal Year Annual Research Report
アピコンプレックス原虫の細胞内増殖と宿主細胞操作に関する研究
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08J56011
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
林田 京子 Hokkaido University, 人獣共通感染症リサーチセンター, 特別研究員(DC1)
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Keywords | タイレリア原虫 / MDM2-p53経路 / 比較ゲノム解析 |
Research Abstract |
本研究ではタイレリア原虫のリンパ球感染に伴う細胞無限増殖機構の解明を目的とし、今年度は以下の二つのテーマを中心に研究を進めた。 1.タイレリア感染細胞におけるmdm2の過剰発現とp53動態解析 我々は、抗癌作用を有する化合物のタイレリア感染リンパ球の増殖に与える影響についてスクリーニングを行い、MDM2に対する阻害剤(TIBL)がT.parva感染リンパ球の増殖を阻害することを明らかにした。さらにタイレリア感染細胞ではMDM2分子の転写の亢進と過剰発現が観察された。MDM2蛋白質は癌抑制蛋白質であるp53の抑制因子であり、腫瘍化の原因の一分子であるとされている。そこで次にT.parva感染細胞にDNA障害によるp53依存性のアポトーシスを誘導したところ、p53は低濃度のままで推移し正常なp53経路が障害されている事が示された。この時のp53のmRNA転写量の減少は認められなかったことから、p53蛋白質が過剰発現しているMDM2により分解されている可能性が示唆された。すなわちタイレリア感染細胞ではMDM2の異常発現によりp53によるアポトーシス経路が障害されており、このことが感染細胞の不死化機序の一因となっている可能性が示唆された。今後タイレリア感染が宿主mdm2の過剰発現を引き起こす機構を明らかにする事で、新規治療薬やワクチンの開発の足がかりとなることが期待される。 2.ゲノム情報を利用した癌遺伝子候補の探索 タイレリア原虫には、リンパ球の癌化を引き起こす悪性種であるT.parvaおよびT.annulataと、癌化を引き起こさない良性種であるT.orientalisがある。私はこれらゲノム比較解析を行うなかで、悪性種T.parva/T.annulataにのみ存在し、良性種のT.orientalisゲノムでは欠損している遺伝子領域を数ヶ所同定した。これらのゲノム領域のコードする遺伝子の局在予測は分泌蛋白質または表面蛋白質であり、T.parva/T.annulataによる細胞癌化操作に関与している可能性がある。そこで現在は本候補遺伝子の機能解析、特に細胞増殖およびアポトーシス経路への関与について解析を行う準備を進めている段階である。
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Research Products
(1 results)