Research Abstract |
奥羽脊梁山地は,測地学的先行研究により「ひずみ集中帯」として知られている.本研究は,主にGPSを用いた測地学的手法から,東北地方の内陸活断層周辺におけるひずみ蓄積過程の解明を目的としている.東北大学と原子力安全基盤機構(JNES)は,2007年10月から奥羽脊梁山地東部に沿った北上低地西縁断層帯の一部,出店断層を横切る稠密GPS観測網を展開しており,本年度はこの稠密GPS観測網および既存のGPS観測点のデータを利用して,地殻変動推定のための自動解析システム構築を試みた.この作業中に,2008年6月14日に出店断層の南西約20kmを震源とする岩手・宮城内陸地震が発生したため,その地殻変動推定と考察も行った.地震前約8ヶ月から地震後約1ヶ月までのGPS観測による各観測点の日座標時系列から,震源域および出店断層周辺における地殻変動について,次の結果を得ることができた.1,地震前の地表変位速度は,出店断層周辺で顕著なひずみの増加がみられる.ただし,これは先行研究からも既に指摘されており,今回の地震前に限定したひずみ増加の可能性については詳細な検討が必要である.2,地震時変動から,震源断層が推定され,出店断層自身の運動は検出されなかった.3,地震後1ヶ月の変位は,出店断層の非地震性すべりの発生を説明できる.この地殻変動パターンは,地震時のものとは異なるため,地殻変動源が同じではないことを示唆する.2008年岩手・宮城内陸地震は,出店断層での非地震性すべりを誘発したと考えられる.内陸地震発生前後をこれほど高時空間分解能で稠密にカバーしたGPS観測は今までに行われておらず,本結果は内陸地震発生と周辺活断層の運動との関係について,貴重かつ重要な結果を残した.
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