Research Abstract |
本年度は,2008年岩手・宮城内陸地震後に観測した長期・広域の余効変動を説明するための粘弾性構造モデルの構築を試みた.また,先行研究との比較,モデルで説明できない部分についての考察を行い,博士論文としてまとめた.2010年8月31日までの稠密GPS観測から,水平成分で太平洋側から日本海側に至る広い範囲で10mm以上の変位が,上下成分で震源域近傍の顕著な沈降が見られた.この余効変動の主要因が粘弾性緩和であると判断し,粘弾性構造モデルによる推定を行った.上部地殻に対応する弾性層と下部地殻以深の粘弾性層から成る球殻成層構造を仮定し,弾性層の厚さHおよび粘弾性層の粘性係数ηの最適値を探索した.震源域近傍は他の要因による影響の可能性が考えられたため,試行錯誤の末,震央距離35km以上に分布する観測点のみを推定に用いた.2期間について調べた結果,本震後2ヶ月-1.5年間の観測値は,H=19.5-25.5km,η=2.4-3.4E+18Pa・s,2ヶ月-2.2年間の観測値は,H=17.0-23.5km,η=3.1-4.8E+18Pa・sとした時に最も良く説明される.推定した弾性層の下端の深さは,本研究対象領域の地震発生領域の下端に概ね対応している.粘性係数は,1896年陸羽地震後の余効変動から推定された結果の約1/3となる.この違いは,奥羽脊梁山脈直下の局所的低粘性領域を反映していることや,定常状態に戻る前の時間変化を見ていることなどの可能性が考えられるが本研究では結論づけられない.粘弾性緩和モデルのみでは説明できない残差が震源域近傍で生じるが,震源断層直上の2点については,この残差の約7-8割が余効すべりで説明でき,先行研究の推定とも概ね一致する.今後は,他の測地観測データと共に,地震波低速度域や火山の存在を考慮した,水平方向にも不均質な粘弾性構造モデルによる推定が重要となる.
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