2008 Fiscal Year Annual Research Report
在日朝鮮人=日本人接触領域における「異種混交性の戦略」に関する社会学的研究
Project/Area Number |
08J56401
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
李 洪章 Kyoto University, 文学研究科, 特別研究(DC1)
|
Keywords | 在日朝鮮人 / 異種混交性 / アイデンティティ / エスニシティ / 国際結婚 / ダブル / コリアン・ディアスポラ / 生活戦略 |
Research Abstract |
まず、「ダブル」は筆者の修士論文における主題であったが、そこで得られたデータの再分析と追加調査を行い、2本の論文を執筆した。たとえば「『新しい在日朝鮮人運動』をめぐる対話形成の課題と可能性-パラムの会を事例として-」(『ソシオロジ』第165号)においては、「新しい在日朝鮮人運動」と「既存の在日朝鮮人運動」を担う人々との対話の諸相を明らかにし、そこからマジョリティとマイノリティが対話空間を形成していくうえでの障害の内実と対話の成立条件を、ある在日朝鮮人運動家どうしの対話を事例とし、ミハイル・バフチンの対話理論に依拠しながら分析した。両者の論争は基本的に、対話的であるとは言いがたい「権威的な言葉」の関係にあった。「既存の在日朝鮮人運動」は在日朝鮮人の権利回復と戦後補償の実現に向けた強力な運動を推進するために、従来の「民族」というシンボルの下でのカテゴリー化を推し進めざるをえなかった。そして、これらの立脚点の放棄はすなわちそれぞれの運動の破綻を意味するがゆえに、相互の持つ「痛み」を直視することができず、両者の語りは平行線を辿ってしまっていた。このことはまさに、現代における在日朝鮮人運動のディレンマを象徴するものである。また筆者は、京都大学GCOEプログラム協力のもと、在日朝鮮人社会における親密圏の変容の決定的要因となっている日本人との「国際結婚」に関する調査を行い、ソウル大学校にて筆者が主宰したワークショップにて報告を行った。具体的には、国際結婚を、「民族性の固守・継承」(=タテのつながり)と「家族戦略」(ヨコのつながり)という二つの着眼点から考察した。在日朝鮮人社会における民族観とそれに基づく結婚観の影響を色濃く受けた在日朝鮮人は、民族の継承という「タテのつながり」の行動様式から「逸脱」した者としてみなされるが、生活基盤を置く在日朝鮮人社会から放逐されることを避けるべく、在日朝鮮人社会の民族観・結婚観と折り合いをつけていくための国際結婚言説を構築する。するとさらに、「民族性の固守・継承」を日本人配偶者に理解させ、家族戦略にも反映させる必要に迫られるのである。在日朝鮮人と日本人の国際結婚の困難さは、まさにこうしたタテとヨコのつながりの交点に存在するものと考えている。
|
Research Products
(5 results)