Research Abstract |
近年,養殖技術の発展とともに,多種類の海産種苗が大量生産されるようになったが,寄生虫,細菌,ウイルス等による病気の増加と多様化が進み,大きな問題の一つになっている。申請者らは,これまでの研究により,人工海水を使用した方が,自然海水を殺菌して使用するよりも感染症が発生し難いことを示唆した。しかし,海産仔稚魚が環境水から取り込まなければならない元素の種類や量に関しての知見は少ない。そこで今年度は,まず海水中の主要元素群より,各種元素を抜き出した人工海水でトラフグ仔稚魚を飼育し,成長,生残率,奇形率,全魚体元素含量等に及ぼす各種元素欠乏の影響を検討した。次に,選定した数種元素群の人工海水を用い,長期間の飼育試験を行って,その成果を確認した。 その結果,特定の元素を欠乏させた数種試験区の仔魚は,各種飼育水への収容後にほとんど死亡した。また,一部の元素群に関しては,飼育後に全魚体元素含量が低い値を示し,その必要性が疑われた。しかし,他の試験区では,生残率,成長等に顕著な差異はみられなかった。これより,トラフグ仔稚魚が環境水から吸収しなければならない数種必須元素の存在が示唆されるとともに,一部の元素は,その吸収経路が餌飼料よりも環境水に依存する割合が高いと考えられた。一方,その他の元素群は環境水中に存在しなくても,餌飼料から十分に吸収できることが示唆された。次に,必須元素のみで作成した人工海水,必須元素に必要性の疑わしい元素を1種類ずつ添加した人工海水,全ての元素が含まれた人工海水をそれぞれ調製し,トラフグ仔稚魚を使って100日間の飼育実験を行った。その結果,試験区間の成長,生残率等に顕著な差異は観察されず,特定元素群で仔稚魚を飼育できることが示唆された。
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