1999 Fiscal Year Annual Research Report
国語科教育改善のための国語能力の発達に関する実証的・実践的研究
Project/Area Number |
09558021
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
吉田 裕久 広島大学, 教育学部, 教授 (80108373)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
植山 俊宏 京都教育大学, 教育学部, 助教授 (50193850)
三浦 和尚 愛媛大学, 教育学部, 教授 (40239174)
位藤 紀美子 京都教育大学, 教育学部, 教授 (80027713)
山元 隆春 広島大学, 学校教育学部, 助教授 (90210533)
牧戸 章 滋賀大学, 教育学部, 助教授 (40190334)
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Keywords | 国語科教育 / 発達研究 / 説明的文章 / 文学作品 / 文章表現 / 音声表現 / 国語能力 / 統計分析 |
Research Abstract |
本科研の最終年度である平成11年度は,科研全体の集約をめざして、本調査及びその分析に取り組んだ。これまで取り組んできた説明的文章領域班・文学作品領域班・文章表現領域班・音声表現領域班のそれぞれの領域による本調査の計画・実施・分析・考察を行った。その結果として、得られた知見の一部に次のようなものがある。 1.基本的に、「メタ認知的な活動」は学年の進行に従って発達するものであり、学年が上がるにつれて、テクスト世界の像を筆者の意図に沿って構築できたり、理由づけを「論理的」に行うこともできるようになる。また、修辞(メタ言語)意識に関しても、文章の文脈にフリーな単語を抜き出すことから、文章への注目さらに、文章の文脈に関わる単語への注目と、修辞意識の中心が移っていくことが観察された。しかし、このような学年の進行に従って変容するものの他に既有の文章図式に乗っ取って経済的に読もうとするものが6年で急に多くなったり、既有の世界意識に従って、文章に関わりなく情緒的に反応しようとする者が、学年に関係なく一定量いることも分かった。 2.自分自身の素朴な脈絡にしたがって解釈を作り上げ、それに基づいて続き物語の世界を作り出す就学直後の低学年の子どもは、次第に作品に固有の「語り」を内面化し、一体化しようとする。そうした「作品の語り手を内面化し、作品を総括的に見渡すことができる視点を獲得する」段階は、小学校高学年をピークとして、完成を見る。そこからは、こうした視点を踏まえながら、そうした作品に巻き込まれた自分を析出する試みのなかで、もう一度自分なりの物語として作品を再創造する段階が始まるのではないか。 3.文章表現に関しては、(1)先行研究(芦田・PML・カミロフ・スミス)をほぼ確認できる調査結果である、(2)ただ、文章表現に対する嫌悪感は低年齢化しており、高学年に文章表現の意義を認めない厭世的な記述が増えている、(3)文章表現の個別性を包括し、指導・学習のための記述の方法は、[典型」としての実際の文章表現例である、(4)文章表現の発達は、それを意識化すること(言語報告)のすじみちを統合的にとらえる必要がある、という4点が明らかにされた。 4.音声表現の対話能力の発達は、対話行為モデル中のワーキング空間(作業領域)で操作できる要素が学年があがるにつれて増えていく過程として捉えることができる。同じような容量の作業領域でも、要約等の抽象化作業ができるようになると、より多くの情報を一度に操作できるようになり、多様な分類があらわれる。対話能力を構成する長期記憶の内容の相違が対話内容や展開を規定していく。対話能力の発達を促す記憶空間のうちに、思考方略に関する知識という要素が新たに考えられる。「思考方略に関する知識」については、その萌芽が小学4年頃から見られ、中学2年では顕著に見られた。 以上に掲げたもの以外にも、多くの知見が得られている。研究全般における成果に関しては、既に1998年3月に中間報告書を刊行しているが、それに続く研究成果最終報告書として『国語科教育改善のための国語能力の発達に関する実証的・実践的研究II』をまとめ、2000年3月末に刊行する予定である。
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Research Products
(7 results)
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[Publications] 吉田裕久: "時枝「たどり読み」論の再検討"国文学攷. 161. 1-15 (1999)
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[Publications] 長崎伸仁: "説明的文章の授業改革案-シンプル化した授業の追究-"月刊国語教育研究. 328. 54-61 (1999)
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[Publications] 三浦和尚: "「快い言語体験」を求めて-教育話法の基本問題-"月刊国語教育研究. 324. 4-9 (1999)
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[Publications] 村井万里子: "ビューラー「四場図式」論の示唆"月刊国語教育研究. 327. 42-47 (1999)
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[Publications] 植山俊宏: "戦後説明的文章指導論の展開-指導過程整備の動向-"教育学研究紀要. 44・2. 1-6 (1999)
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[Publications] 山元隆春: "〈記憶〉を伝え、受けつぎ、共有する営みとしての文学教育"日本文学. 49・1. 60-68 (2000)
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[Publications] リチャード・ビーチ著,山元隆春訳: "教師のための読者反応理論入門-読むことの学習を活性化するために-"渓水社. 352 (1999)