2000 Fiscal Year Annual Research Report
古代・中世ケルト美術における「文様」と「神像」の神話的要素
Project/Area Number |
09610064
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
上田 高弘 立命館大学, 文学部, 助教授 (80244979)
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Keywords | 文様 / 抽象性 / 装飾 / 反古典的 / 半三次元 / 平面性 / アラベスク / アール・ヌーヴォー |
Research Abstract |
ケルト美術は紀元前700年から紀元800年まで装飾的「文様」を一貫して表現し続けた。「渦巻」「組紐」「動物」「幾何学」などの「文様」の表現こそが、ケルト美術の特異な<抽象性>即ち反古典的美術であるという認識を導き出してきた。しかし文様の構造を分析するとその<抽象性>は、古典古代美術に範をとる具象的美術(史)の表現に単純に対立するような<抽象>ではないことが前年度までの研究で確認された。即ちそれは二次元平面に線を描いていく扁平なグラフィズムではなく、純粋な二次元的形象と完全な三次元的形象の「間を縫っていく形象」(F・アンリ)である。文様は平面に拘束される反面、立体的な身体性を暗示することにおいて一貫しているからである。従って本研究ではこのケルトの特異な<抽象性>を、美術史上、<抽象>表現を最も意識的・理論的に実践した西洋近現代美術の構造と比較し、その観点からケルト美術を西洋美術における<抽象>の概念を批判的に照らし出す根拠として捉えることを目的とした。 近代美術において絵画的「平面性・二次元性」の視覚的意識化が行なわれる時、ゴーガンやドニの方法である「総合主義」には、<平面>の獲得において<装飾>的な要素が導入されている。絵画こそが<応用美術>化するという状況下で生まれた二次元性は、装飾的要素の効果によって、半二次元・半三次元といえる空間を獲得する。まさにケルト文様がひとつの源泉となった「アール・ヌーヴォー」の装飾美術は、文様の半立体性に牽引されるそうした中間的な空間を得る。やがてマチスの「室内」や「装飾的人体」のようにアラベスクの文様が不可欠の絵画では、空間の非安定的平面が顕著となる。近現代の<抽象性>は、原理的にそうした平面の拒否と立体の拒否を文様的装飾的美術の働きを活用しながら展開しており、ケルト美術の特質を近現代から照らし出していく要素が確認された。
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