1997 Fiscal Year Annual Research Report
日本の伝統芸能における「芸」の伝承に関する教育思想史的考察-日本舞踊家西川鯉三郎の芸道教育の系譜および特色をめぐって-
Project/Area Number |
09610281
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Aikoku Gakuen Junior College |
Principal Investigator |
田中 加代 愛国学園短期大学, 家政科, 助教授 (90060714)
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Keywords | 芸道教育 / 伝統文化 / 伝承 / 型 / 名人 / 修業 / 稽古 / 教育力 |
Research Abstract |
これまでの研究対象であった広瀬淡窓・亀井南冥・亀井昭陽・貝原益軒らにみられる儒学教育者の教育観・教育方法の特色をとらえ直し、師と弟子との関わりについてまず考察した。その結果、師からの学問の系譜すなわち学問の道筋である「学統」は中国においても重要なものであったが、日本の近世儒学界においても大いに重要なものと考えられていたことが判明した。 そうした近世の学問・教育の世界の影響は伝統文化の世界にも及び、特に芸道教育を通して今日に伝えられていると考えられる。それは血筋や師弟関係を重視する日本独特の様式である。しかしながら、芸道や職人の世界においては、学界をはるかに凌ぐ絶対性や規律性が師や家元に存在する。すなわち、「学統」ならぬ「道統」・「芸統」なるものが、現代にも色濃く受け継がれているのが伝統文化の世界であろう。 初世西川鯉三郎については、現存する資料がほとんどなく、不明な点が多い。二世鯉三郎については、同様に資料として残されているものは少ないが、作家の平岩弓枝氏らが調査をし、かなりのことが判明している。二世はいわゆる名門の出身ではないためか、名人級の芸を持ちながら、公的な評価に恵まれなかった人物ではある。 二世鯉三郎の舞踊の特色は、師の六代目尾上菊五郎の芸風を受け継ぎ、歌舞伎舞踊を基本にして現代風なリアルさと粋さを加えたものである。その振付や舞踊表現は専門家や花柳会のみならず、一般大衆をも魅了する大衆性を持ったものであった。またその芸の伝承の方法は、「稽古」という修業の過程において、芸の型というよりも「踊りの心」を伝えるものであり、大いに教育力を持つものであった。伝承の中にこそ創造の契機があるのが日本の芸道の特徴であると考えられるが、「二世の『稽古』自体が創造の場であり、人間を作る場であった」と門弟たちは語っている。
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