1999 Fiscal Year Annual Research Report
日本の伝統芸能における「芸」の伝承に関する教育思想史的考察―日本舞踊家西川鯉三郎の芸道教育の系譜および特色をめぐって-
Project/Area Number |
09610281
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Research Institution | Aikoku Gakuen University |
Principal Investigator |
田中 加代 愛国学園大学, 人間文化学部, 助教授 (90060714)
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Keywords | 花 / 極意 / 間 / 名人 / 心に伝わる教え / 写実 / 人間ドラマ / 教育的効果 |
Research Abstract |
世阿弥は、「舞台芸術である能は、優れた先人の芸を受け継いでゆくと言っても、天性の才能ならびに自分で創造する行為が必要なのであるから、ことばですべてを説明することはできない。先人の芸風を稽古によって人間の心から心へと伝承して得られるのが『花』である」とし、「心より心に伝ふる花」といった。 二世西川鯉三郎の芸の伝授も同じ極意で、常にふとした機会を捕らえて、弟子に二人以上の踊りの場合の互いのやり取りの「間」を教えるなど(西川左恵談)、「心に伝わる教え」という特徴が顕著であった。したがって、鯉三郎については、自身の舞踊も名人級ながら、その教え方の巧みさもまさに名人級といえるものである。それは彼に舞踊教授を受けた弟子は勿論、他の芸能人や演出家達が異口同音に語っている。 鯉三郎の師であった六代目尾上菊五郎は、写実的(芝居的)な踊りを得意とし、リアルで新劇的な芸風を持ち、人間ドラマの要素を基本として、しかも芸のうまさに酔わせるものを持っていた。鯉三郎も師のそうした特徴を受け継いで写実的であり、つまりものまね式の表現がうまい。ということは、舞踊が観客にわかりやすいことを意味している。そして、それは教える場合にも、わかりやすく表現して教えることにつながっていた。 すなわち、伝統芸能伝承においても、現代的な表現を加味することによって、人々の心に伝わりやすく、理解しやすい舞踊として伝授するという、教育の根本精神につながるものがその神髄であることがわかる。そしてその結果、観客に感動を与え、教育的効果を与えることになるのである。
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