1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09610337
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Naruto University of Education |
Principal Investigator |
棚橋 久美子 鳴門教育大学, 学校教育学部, 助手 (30186316)
|
Keywords | 桜戸日記 / 女性のあり方 |
Research Abstract |
今年度は、近世後期の女性隠居の日記(「桜戸日記」)の解読を行った。近世の女性日記は、和歌山藩儒の妻が書きした「小梅日記」などいくつか知られているが、その数は少ない。これを解読することで、近世の庶民の女性のあり様を明らかにできるだけでなく、近代以降の女性のあり方と対比し、近世と近代の女性の存在形態の異同を浮かび上がらせることもできる。 上田美寿は、古稀を迎え、日記を書き始め、亡くなるまでの五年間分が残っている。彼女は、漢学者で医師でもあった三宅松庵の子として徳島藩の在郷町(脇町)に生まれ、父親の弟子に混じり、父親から教育を受けた。長じて徳島藩家老稲田氏の中小姓、上田官兵衛に嫁ぐ。 日記は漢字交じりの万葉仮名で書かれて、書体は御家流である。日記を書き始めるまでにも、伊勢参詣や金比羅参詣の旅日記をまとめたり、女性が読んだ句だけを集めた俳句集を編纂したり、当時の普通の女性とくらべると高い教養を持ち、その教養を発揮できる金銭的・時間的余裕のある生活を送っていることが窺える。 現在、二ヶ年分の日記の解読を終了したが、そこからは年齢相応の体の不調が時にあるものの、実に生き生きと充実した毎日が浮かび上がってくる。たとえば、毎日の読書、筆子たちへの対応、讃岐高松からの友人と吟行、新潟、会津、種子島、土佐、伊予などの友人との文通、伊勢から来た俳句宗匠との交流、芝居見物、近隣の俳句仲間との交流など、「忙しい」ほどである。 この「恵まれた生活」を、近世の身分や階層性、彼女が生活する地域社会のありさまを勘案しながら、女性史の中に位置づけていきたい。
|
Research Products
(1 results)