1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09610400
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Research Institution | Naruto University of Education |
Principal Investigator |
田中 優 鳴門教育大学, 学校教育学部, 教授 (40132526)
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Keywords | 社会保険 / 帝国保険局 / 地域疾病金庫 / ゲマインシャフト / 自治 / 社会調和 / 社会紛争 |
Research Abstract |
1880年代に成立した労災保険、疾病保険、廃疾・老齢保険の組織原理となったのはゲマインシャフトであり、ゲマインシャフトに依拠しつつ成立したこれらの社会保険は、社会調和の確保のための手段として計画されたものである。だが、社会保険は実践のなかで、理念的な社会調和の実現というよりも、むしろ社会紛争が公に解決される場へと変貌した。 この変貌は社会保険の組織基盤を形成した自治に求められる。ゲマインシャフトは社会のアトム化に対抗して、失われた社会の有機的結合の再開を目指したが、その際の基盤となったのが自治である。社会保険の管理運営に見られる自治は、労働者と企業家の共同を特徴としている。そして、この共同自治が社会調和的姿をとるのは、導かれる者としての労働者という労働者自らの意識、ならびに企業家によるそうした労働者像を前提にしていた。 20世紀転換期頃になると、労災保険金、廃疾保険年金に対して、被保険者が社会保険の最高決定機関である帝国保険局へ不服申し立てをする数が増大した。また地域疾病金庫を管理運営する幹部に社会民主主義系労働組合員が選出され、労働者の要求を主張しはじめた。このことは、導かれる者としての労働者から、権利としての社会保険を主張する労働者への労働者自らの変化を物語っている。自治は労働者の教育の場であったのだ。社会民主党は社会保険という国家の監督する社会組織に参加するなかで改良主義的傾向を強め、労働者と企業家双方の主張を調停する方向へ向かった。資本主義社会に固有の紛争の存在を認めてそれを均衡させようとする社会自由主義の力の増大は、国家官僚のなかにもそれに同調しようとする傾向が出現したことをベアレプシュの社会政策に見ることが出来たのである。
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