1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09610495
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Tsuda College |
Principal Investigator |
川本 静子 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (40055299)
|
Keywords | <新しい女> / センセーション・ノベル / セクシュアリティ |
Research Abstract |
本年度は、1860年代の煽情小説のヒロイン像が世紀末の<新しい女>像にどのように接ぎ木されているかを研究課題とした。代表的な煽情小説家としてMiss Braddon、Mrs.Henry Wood、Rhoda Broughtonの三作家を取り上げ、彼女たちの作品に登場するヒロインに女のセクシュアリティに関する新しい認識の萌芽が見られることを跡付けた。この認識は当然のことながら“subversive heroine"の出現を促し、家庭の崩壊を引き起こしている。その意味で煽情小説のヒロインは結婚の本質を問いなおし、新しい男女の関係を模索する一つの手がかりを示唆していると言えよう。言葉を換えれば、こうしたヒロインたちは、一般女性が声に出して表現できなかった結婚に対する疑問や女の肉体の無視に対する抗議を、その行動と意識を通して具現したのである。しかし、センセーション・ノベルはあくまでサ-キュレイティング・ライブラリーという流通市場の商品の域を超えることがなく、大多数の人々の是認するモラルと究極的には妥協し、ヒロインの破壊力を死、狂気、悔恨などの形で弱めてしまった。しかし、なんらかの形で家庭から逃亡していく煽情小説のヒロインたちの姿は、当時の女性読者の秘めた願望、すなわち、娘・妻・母としての性役割から逃げ出したいという夢の投影であろう。その夢が世紀末の<新しい女>たちにフェミニズムの思想をまとって現実化していると考えれば、センセーション・ノベルのヒロインたちは世紀末の<新しい女>たちの前ぶれとして位置づけられるのである。
|