1998 Fiscal Year Annual Research Report
インド文学史を形成する社会的位置の異なる様々な種類の詩人たち
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09610528
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Research Institution | The Eastern Institute |
Principal Investigator |
水野 善文 東方研究会, その他部局等, 研究員 (80200020)
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Keywords | インド文学史 / 詩人 / サンスクリット |
Research Abstract |
昨年度に引き続き、インド文学史に名を残している数多の詩人たちの出自、出身地、生涯の居住地など、社会的立場を伺うヒントになると思われる記録を、現存文献の中から拾い出す作業を進め、10件ほど情報収集した。 当初、今年度に行う予定であった、ダルマ・シャーストラ文献(生活規範書)およびアルタ・シャーストラ文献(処世術)等の中から、文学の創作活動および読誦に携わった人々に関する言及箇所を網羅的に拾い出す作業には移れなかったが、ある一詩人の創作した文芸作品の内容を吟味することから新たに示唆されることがあったので報告しておきたい。 11世紀カシュミールの詩人クシェーメーンドラは多くの作品を残しているが、「カラーヴイラーサ」を初めとする幾つかの作品は社会を風刺する内容で、官僚、宗教家、医者、兵士等々、様々な職業の人々の実態を描いている。自らバラモン階級に属したと思われるが、バラモン批判も手厳しく、彼をとりまく社会的環境はどうなっていたのか、社会背景へと興味が拡がる。つまり、出自がバラモン階級であっても、必ずしも、バラモン至上社会に安閑としている者だけが存在したのではないということで、他の各層との交友を窺わせるのである。 これは、詩人の伝記的記述のみを拾い上げるという前段階の作業の盲点をついて出てきた問題と言え、実際の作品の内容も吟味する必要があることを示している。しかし、その作業には厖大な時間を要することは必至だから、この研究期間内では、この点、歴史学等の分野における既存の研究成果に頼らざるを得ない。 最終的に詩人の情報を処理する段階で、そうしたとりまく社会との有機的連関が考慮できるよう、注意しながら作業を進めていきたい。
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