Research Abstract |
本年度は,前半,アメリカおよびヨーロッパ評議会の規制を踏まえながら,精神障害者を対象とする研究などの具体的問題を研究したが,後半は,厚生科研垣添班の『遺伝子解析研究に付随する倫理問題等に対応するための指針』の作業委員会委員,および,科学技術会議ヒトゲノム研究小委員会の『ヒトゲノム研究に関する基本原則』の原案を作成する「ヒトゲノムの研究開発動向及び取扱いに関する調査」委員会委員に委嘱されたため,基本原理を研究しながら,それを応用するという機会を得た。両委員会に共通する重要論点として,(1)包括的同意の許容性,(2)既採取試料の遺伝子解析研究の要件,(3)研究結果を求める試料提供者の権利,(4)遺伝的危険を負う血族に遺伝情報を知らせることの許容性・義務性,(5)同意能力が不十分な者からの試料採取の許容性および代諾の問題,があげられる。これらの問題点について,合衆国のNational Bioethics Advisory Commission の報告書を用い,また,(4)については,合衆国の州裁判所の判決(Pate v.Threlkel,640 So.2d 183(Fla.Dist.Ct.App.1994);Safer v.Estate of Pack,291 N.J.Super.619,677 A.2d 1188(1996))を参照して検討した。研究の結果,各問題について,(1)血液を用いる遺伝子解析研究,あるいは,ヒト試料を用いる医学的研究(いずれも対象疾患は不特定)など,ある程度の特定性が認められるものに対する包括的同意であれば,試料提供者が同意の対象を理解できるように配慮することを条件として認める余地がある,(2)個人識別情報にたどることができる試料については,再同意取得が原則で,例外は厳しい要件が充足される場合に限定されるべき,(3)結果を戻さないことを原則とする研究を容認してよい,(4)原則的に試料提供者の守秘を損なうことは認めるべきではない,(5)本人同意が得られない場合には加重要件の充足が必要,ということになった。
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