1998 Fiscal Year Annual Research Report
3価リン化合物の求核性と一電子供与性の区別に及ぼすリン上置換基の効果
Project/Area Number |
09640654
|
Research Institution | Tezukayama College |
Principal Investigator |
安井 伸郎 帝塚山短期大学, 家庭生活学科, 教授 (50149720)
|
Keywords | 3価リン化合物 / 一電子移動 / ローダミン |
Research Abstract |
本研究は、3価リン化合物の有する一電子供与性と求核性の相対的重要性がリン上置換基によってどのような影響を受けるのかを解明しようとするものである。まず前年度と本年度では一電子供与性に注目し、その反応性とリン上置換基の関係を検討した。すなわち前年度では、3価リン化合物の一電子供与性を熱力学的な量である酸化電位で評価し、3価リン化合物からの一電子移動(SET)過程の熱力学に及ぼすリン上置換基の影響を明らかにした。この成果をふまえ本年度は、このSET過程の動力学の検討を試みた。 申請者は、色素ローダミンの光励起状態が3価リン化合物からのSETによって消光されることを見いだした。 そこで、フェニル基またはアルコキシル基を置換基として持つ一連の3価リン化合物によるローダミンの消光実験を行い、Stern-Volmer法で消光定数を決定した。これらの定数は3価リン化合物からのSETの速度定数であり、これらを基にしてこのSET過程の速度論を定量的に解析することができる。この解析から申請者は、(i)3価リン化合物から光励起ローダミンへの電子移動段階が発熱である場合、SETは拡散律速の速度で起こること。(ii)電子移動段階が吸熱である場合、吸熱性が増大するにつれ、すなわちこの段階の自由エネルギー変化が正でより大きくなるにつれSET速度は期待通り遅くなるが、その遅くなり方(SET速度の自由エネルギー変化への依存度)はMarcus理論やRehm-Weller理論から予想されるものよりはるかに緩いこと、を明らかにした。一方申請者は、アミンによるローダミンの消光実験を同様に行い、アミンからのSET速度は上記の理論で完全に記述可能であることを見出した。以上のように、3価リン化合物はアミンと異なり、そのSET過程の速度諭に関し極めて特異的に振る舞う化合物であることを示すことができた。ここでSchusterの速度論モデルを援用してこのような速度論的挙動を解釈すれば、SETによって生じる3価リン化合物のラジカルカチオンは水やアルコールなどの求核剤に対して極めて高い反応性を発揮するものであると結論づけることができる。
|