Research Abstract |
本研究の目的は,祭礼時の町家を中心としたハレの日の空間演出に着目して,その現状を詳細に調査し,聞き取りや文献研究によって,歴史的変遷を明らかにすることである。今年度の現地調査は昨年度に引き続いて行い,本調査,補足調査を含めて近江日野祭,越前三国祭,京都祇園祭,大阪天神祭,小浜放生会,近江大津祭,京都鞍馬祭,丹波亀岡祭,伊賀上野祭で実施した。 現地では建築班,街路班,民俗班,美術班を編制して総合的に調査を実施した。町家・町会所の飾り方調査,街路空間における飾り要素の分布調査,祭礼の建営母胎や準備状況についての聞き取り調査,屏風の作品調査を行い,ほかに祭礼の絵図,地誌,町共有文書などの関連資料を収集した。 報告書の総論は,「祭礼時の屋内演出に関する建築空間研究」,「祭礼時の街路演出に関する都市空間研究」,「屏風祭に関する美術史的研究」,「都市祭礼におけるディスプレイに関する民俗的研究」,事例報告で京都鞍馬祭,天神祭,大津祭,近江日野祭,亀岡祭,伊賀上野祭,若狭小浜祭,越前三国祭を紹介した。 従来の祭礼研究は神事や山車を対象にしたものが主流であったが,本研究によって町家や街路の演出手法が明らかになった。(1)両側町という比較的閉鎖的な都市空間では,軒庇を利用した慢幕,提灯の飾りが定型になっている。(2)町並みを構成する町家はふだんは閉鎖的であるが,祭礼時には通りに向かって開放的になり,屏風などが飾られ,展示空間として機能している。(3)町の会所や当番の町家では,山車の懸装品等が展示され,コミュニティ施設にふさわしいハレの演出が見られた。(4)祭礼時の空間演出の研究は,民家史研究や住生活史研究に大きな意味があるだけでなく,歴史を生かしたまちづくりを進める上で,建築計画学,都市計画学に対しても大きな知見を提供するものである。
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