1998 Fiscal Year Annual Research Report
間接性発話が持つ文脈的意味の語用論的分析及びその結果の日本語教育への応用
Project/Area Number |
09680299
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
藤原 雅憲 名古屋大学, 留学生センター, 教授 (10156929)
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Keywords | 間接性発話 / 発話力 / 遂行性 / テクスト / 機能主義 / 日本語教育 |
Research Abstract |
直接性発話から間接性発話への連続的推移を説明するためには発話力という概念が効果的であることがわかった。これはいわゆる対人モダリテイに近いものであるが、「ああ、お茶、からか」といった発話に見られるように、対人モダリテイを欠いた発話であるにもかかわらず、発話力が認められる場合があることが認められた。この発話力をさらにはっきりさせるために、次の三つのことを試みた。 一つ目は、発話力という概念に理論的説明を与えることを目的として、語用論に関する先行研究を網羅した叢書『Pragmatics』6巻の文献研究を行った。その結果、文の意味と発話の意味を峻別する必要があること、その意味の隔たりに発話の遂行性が関与していること、二つの意味のブリッジには世界知識が不可欠であることが明らかになってきた。 二つ目は対話資料の収集と分析である。これは、あるテーマを与えて二人の被験者に会話をしてもらい、それを録音し文字化することである。その一部を分析したところ、間接性発話がほとんど出現しないことがわかった。これは予期した結果で、間接性発話の現れにくいテクスト・文脈が存在すると言えるわけであり、今後さらに調査を続けたい。 三つ目は日本語教科書の分析である。発話の間接性という考え方は、言語教育でいう機能主義と大いに関連している。そこで、機能シラバスによって編集された二つの教科書、『Situational Functional Japanese』、『現代日本語コース中級』を分析の対象に選んだ。この分析を通してあきらかになったことは、教科書の会話文が作者の経験則に寄りかかって作成されたものであって、自然会話の内実を十分には伝えていないということである。意識化されない、存在可能発話が教科書では扱われていないことがわかった。
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