1997 Fiscal Year Annual Research Report
学歴社会を支える欲望に関する社会学的研究(日本とフランスの比較)
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09710155
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Research Institution | Tezukayama Gakuin University |
Principal Investigator |
薬師院 仁志 帝塚山学院大学, 文学部, 専任講師 (50243001)
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Keywords | 学歴 / 教育 / 現代社会 |
Research Abstract |
本年度は、主として日本の学歴社会状況についての分析を実施した。主として、文献資料に基づく研究である。その結果、研究の中間段階の暫定的成果として、以下のような全般的状況が推察された。 1、人々の学歴志向、学歴に対する欲望は、ある意味で露骨な態度で表明されることはなくなってきたと言えるが、決して失われたわけではなく、水面下ではさらに過熱しているのではないか。 2、社会人の大学編入・再教育志向など、これまでとは異なった形での学歴志向が現われており、学歴志向、学歴に対する欲望はむしろ拡大している。 3、その一方、社会移動に対する閉塞感は着実に拡がってきており、とくに経済的な側面では資産格差の拡大と固定化が一世代の努力では逆転不可能になっていることが自明視されるようになった。 4、そのような閉塞感が、むしろ危機感を生むようなかたちで、自己の社会的地位を向上・維持・安定させたいという意識が強まり、学歴志向、学歴に対する欲望を支えているようである。 5、だが、それはかつてのような露骨な立身出世志向ではなく、むしろそのような熱気を帯びたものというよりは、冷めたせめてもの欲望に矮小化しつつあるように思われる。 6、そのような状況下の競争において、学歴によって確保可能な範囲内での満足や達成が自己目的化しつつある。 7、その半面、その競争が全員に向上心を植えつけるような力づよい上昇志向に結びついていないため、目標を放棄する層が増えつつあるように見受けられる。教育の場に、二極文化がしょうじているのではないか。 8、要するに、大きな上昇願望に裏打ちされない自己目的化した冷めた学歴志向が多くの人に蔓延する一方で、全くそれに関与しない層を同時に生み出していると考えられるのである。 以上が、本年度の研究成果の概要である。次年度は、フランスの事情を調べ、日本の状況と比較検討する予定である。
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