1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09710348
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
樋渡 さゆり 明治大学, 農学部, 講師 (40238423)
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Keywords | 風景 / 言語 / テニスン / ヴィクトリア朝 / 聖書 / タイポロジー / コミュニケーション / 翻訳 |
Research Abstract |
詩人・作家の「内なる風景」の創造と展開と主な軸として、18.C後半から20.Cの英文学の特徴を探るという長期的な展望の中で、今年度は、主に「風景」、「言語」の問題を中心として、テニスンに代表されるヴィクトリア朝の文学の特徴を考察した。テニスンの作品を。Enoch Arden(1864)を中心に取り上げ、ヴィクトリアン・タイポロジーによる方法、および解釈学的な方法を用いて考察した。その結果、Enoch Ardenの主人公Enochは、交通、流通、交換、伝達などのコミュニケーションを「司る」男であり、この作品は「伝道の書」であると同時に、科学と宗教の二つの領域を巡る、ヴィクトリア朝的なコミュニケーション論を示すという結論に達した。Enochの難破の物語は、言語表現のレベルでも"communication"と"translation"をテーマとする「転覆」の物語である。「転覆・反転」の軸は、当時の科学と宗教の共通のフィールド、旧約聖書の創世記のテキストであり、その登場人物Enochである。テニスンは、予表論的な解釈のコードによって囲われた正典のテキストと、当時「発掘」され、最近『死海文書』研究によって評価が定まりつつある"Intertestamental"な偽書『エノク書』のテキストを触れさせ、インターテクスチュアルな存在としてEnochを創造し、その解釈学的な旅を通して、転覆としてのコード転換の内に姿を現わすコミュニケーションの神、ヴィクトリアン・ヘルメスを表現したと評価できる。これまでに発表したワ-ズワ-ス論や、テニスン論を発展的に展開する内容の研究となった。研究の成果の一部は、日本英文学会第69回大会において「TennysonとIntertestamental "Enoch"」という題で口頭発表した。論文としても投稿中である。また、平行して行っている、ワ-ズワ-スらロマン派および現代の英詩研究の成果も、単行本『イギリス史重要人物101』(新所館1997)において発表できたことを報告する。
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