Research Abstract |
鉄など金属材料の局部腐食は,最も危険な腐食形態である。しかし,局部腐食の反応機構,特に前駆過程には不明な点が多い。本研究は,溶液環境中で金属表面を覆う不働態皮膜に対して,攻撃性アニオンを打ち込むことのできる"液中イオン銃"を開発し,局部腐食前駆過程の解析に適用した。 1. 液中イオン銃には,直径180μmの銀線をガラス管に封入し,先端をディスク状に研磨した後,塩化銀を被覆した微小電極を用いた。液中イオン銃の電極チップからの塩化物イオンの発生は,カソード分極により行った。塩化物イオンの発生効率は,ほぼ100%であり,カソード電気量に比例することを確認した。また,塩化物イオンの発生後には,液中イオン銃の電極チップは,不働態皮膜から溶出する鉄(III)イオン等の検出にも有用であることを確認した。 2. 被測定物である金属試料の電極電位を制御しながら,液中イオン銃を作動させるために,当研究室で開発した走査電気化学顕微鏡を応用した。すなわち,コンピュータにより制御された走査ステージに液中イオン銃を取り付け試料電極との距離を制御し,バイポテンショスタットを用いて試料電極および液中イオン銃の電位の制御と電流の検出を行った。 3. 鏡面研磨した鉄試料表面に,pH6.5のホウ酸塩水溶液中,一定電位E_aでアノード分極することにより不働態皮膜を作成した。引き続き,試料電位をE_aに保持したまま,試料電極表面の上方75μmに配置した液中イオン銃を塩化物イオンを生成する電位-0.1V_<SHE>に電位規制した結果,数十秒の誘導時間の後,鉄試料に流れるアノード電流が急激に増加し,イオン銃直下の不働態皮膜は局部的に破壊した。一方,アノード電流の増加する間,イオン銃に流れるカソード電流は塩化物イオンの生成電流よりも,異常に増加した。この異常電流は,鉄(III)イオンの還元反応に起因するものであり,皮膜が局部的に破壊される前に塩化物イオンにより,不働態皮膜から鉄(III)イオンが溶出するものと示唆された。皮膜破壊後,試料アノード電流は定常値となり,腐食サイトの窪みは深くなった。一方,イオン銃のカソード電流は,ほとんど零になった。すなわち,皮膜破壊部から鉄(II)イオンが溶出する反応機構で局部腐食が進展することを確認した。これらの局部腐食発生過程は,皮膜作成電位E_aにより異なった。
|