Research Abstract |
1. 目的 発音時の舌と口蓋のみならず歯列との接触様式の適否は,多くの語音に重要な意味がある.そのため,舌と歯列・口蓋との接触形態を調べる方法として主として静的パラトグラム法を行い,義歯設計の参考としても利用してきた.しかし,調音活動は本来,流動的なものであり,動的な経過の分析が望ましい.本研究では,音声分析パターン(3D-Sonagraph)と連動するダイナミックパラトグラフィーにより文章発音中の舌の調音運動パターンと子音産生のタイミングを比較検討した. 2. 方法 (1)被検者:個性正常咬合を有した有歯顎者18名(男11名,女7名)と上下全部床義歯装着者(1名). (2)被検者:「桜の花が咲きました」(3)記録解析方法:口蓋および歯列の基底結節および舌側咬頭に計96個の電極を配列した口蓋板を被検者の口腔内に装着し,音声と同時にPalatometer(Model 6300:KAY社)により,舌接触パターンを記録した.このシステムでは,即時に得られた音声のspectrogram(ソナグラム)と舌接触パターンの画面がリンクしており,カ-ソル位置に対応する経時的な舌接触位置の変化を観察できる.さらに,データをCSL(Computerized Speech lab,Model 4300B:KAY社)に転送し,各子音について“構え",音発生,舌の最大接触,音終了点を判別する.そして,各時点で舌接触する電極の位置を記録し,個々の電極について接触の頻度(%)を集計した. 3. 結果と考察 (1)有歯顎者と無歯顎者の比較:無歯顎者では,[s],[∫],[t]で舌接触のパターンは有歯顎者と同様であったが,接触範囲が広い.[ki]の[k]では,口蓋前方の広範囲に接触する特異的なパターンである. (2)粉末法とダイナミックパラトグラムの比較:[s],[∫],[t],[k]は有歯顎者の文章発音中の最大接触時に,粉末法(単音節)のパターンと同じであり,舌接触の範囲が調音に重要な役割を示すことが裏付けられた. 一方,[n],[r]は,文章発音中では粉末法より舌接触が少ない.このように.連続音を動的に解析することにより,舌接触パターンが調音に本格的に重要な役割を果たす音では素早い発音中にも標準パターンになる事が裏付けられた.以上のように本システムでは,パラトグラム,音声波形,ソナグラムが完全に同期し,相互の時間的関係を精密に観察でき,顎補綴患者の機能的評価に応用できることが示唆された.
|