Research Abstract |
研究計画実施状況 1.KamLANDデータ収集続行 今年度1年間は順調にデータを収集した。しかし,東京電力が柏崎原子力発電所のトラブル隠しのために,強制的に長期点検を実施したため,昨年の夏には,神岡における原子炉起源のニュートリノ・フラックスが前年度の50%までに減少した。現在は徐々に回復しているが元に戻っていない。 2.原子炉反ニュートリノデータ解析 本来ならデータを蓄積し,ニュートリノのエネルギー分布の測定により,振動現象特有の分布パターンを検出し,ニュートリノ振動を反応事象数と異なる独立の物理量から再確認を行なう予定であった。しかし,前述したようにフラックスの減少により,データの蓄積が遅れ,解析を続行している所である。しかし,今月第一論文と異なる新たな結果が求まる可能性が確認されたため,原子炉反ニュートリノ論文作成グループが結成された。 昨年1月に発表した原子炉反電子ニュートリノ消失現象の発見に関する論文(Phys.Rev.Lett.90,021802,2003)は,現在までに被引用数466となっており,また,Thomson ISI Web of Scienceデータに基づくScience Watch誌の最新号(March/April,2004)で,本論文は月間被引用数で物理学分野の世界第一位,医学,化学,生命科学,物理学を合わせた総合順位でも世界第二位となっている。 3.太陽反電子ニュートリノ探索結果(Phys.Rev.Lets.92,071301,2004) 2002年3月から12月までの実稼働時間185.5日分のデータを用いて,太陽ニュートリノ欠損現象のもう一つの有力解である,太陽磁場とニュートリノ磁気能率の相互作用+ニュートリノ振動よる電子ニュートリノ→反ミューニュートリノ→反電子ニュートリノによって生じる,反電子ニュートリノ検出を試みた。その結果,ニュートリノのエネルギー8.3MeVから14.8MeVの間で0事象であることが検出された。そして,90%信頼度での太陽反電子ニュートリノ量の上限値=3.7×10^2cm^<-2>s^<-1>を得た。この結果は,これまでの探索で得られた上限値のワールドレコード(スーパーカミオカンデの結果)の30分の1に相当し,記録を塗り替えた。また,ニュートリノ磁気能率による太陽ニュートリノ欠損現象の解決の可能性をほぼ否定した。 4.^7Be太陽ニュートリノ・エネルギー分布測定のための純化装置の改良 ^7Be太陽ニュートリノの単独検出による太陽ニュートリノ欠損現象の解明するためには,液体シンチレータ中に含まれている放射性物質を,極度に除去することができるかどうかに依存している。現在・カムランド実験で得られるデータから,ウラン(238),トリウム(232),カリウム(40)の混入量は充分に少なく,除去目標を達成した。しかし,その反面,ラドン(222),鉛(210),クリプトン(87)の液体シンチレータ中の混入量が予想以上に多いことが判明し,これを効率良く除去する液体シンチレータ純化装置の開発と純化装置室整備が急務になった。このため,ラドンとクリプトンを極力除去する脱気装置の開発を検討した。そして,超高純度窒素ガスを坑内空気から製造する装置の開発を行なった。現在の手法は,坑内空気から窒素を分離し,これを液体窒素にした後に,ゆっくり蒸発させる方法である。テストベンチを作り窒素純度達成率を調べ,装置の種々の変更可能部分を改良している最中である。 一方,^<210>Pbを効率よく除去するために,シリカゲルや他の吸着物質による除去方法と,蒸留による方法を検討した。これに基づき,テストベンチを作成し除去効率と蒸留方式の相関を求めた。テスト実験は最終段階に至っており,各手法の除去効率の向上,双方の手法を混合した多段除去装置の検討,神岡鉱山内に設置する場合を想定した実際の装置の検討を行っている。 5.地球反ニュートリノデータ解析 史上初の地球内部で生成される反電子ニュートリノ検出の試みを実施している。地球内部ニュートリノは地球エネルギー生成機構解明の鍵を握るものであり,初めて地球内深部の診断が実現される。地球起源反電子ニュートリノの検出は順調にデータが蓄積し,論文作成グループの結成が間近である。
|