2011 Fiscal Year Annual Research Report
電子顕微鏡による細菌べん毛など生体超分子の構造解析
Project/Area Number |
09F09783
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
難波 啓一 大阪大学, 大学院・生命機能研究科, 教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
RUAN Juanfang 大阪大学, 大学院・生命機能研究科, 外国人特別研究員
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Keywords | べん毛モーター / 電子顕微鏡 / 生体超分子 / ナノマシン |
Research Abstract |
細菌の運動器官であるべん毛は、細胞外に細長く伸びたらせん型繊維のべん毛と、その根元の細胞膜を貫通する構造の基部体からなり、基部体は回転モーターとして、べん毛繊維はらせん型プロペラスクリューとして働く。モーターの直径は40nm程で、毎分数万回する高速モーターである。モーターは固定子と回転子からなり、固定子はイオンチャネルで、細胞外から細胞内へ流れる水素イオンのエネルギーによって回転を駆動する。本研究の目的は、凍結水和試料の低温電子顕微鏡像の解析により、モーターの立体構造を解析し、べん毛モーターのトルク発生や回転方向スイッチのメカニズムを解明することである。 今年度も昨年度に引き続き、フランスCNRSの共同研究者Long-Fei Wu博士のグループが地中海から採取して単離培養に成功したMO-1株と呼ばれる磁性細菌のべん毛について、低温電子顕微鏡による構造研究を進めた。MO-1株は大腸菌の10倍にもおよぶ300μm/sの超高速で泳ぐ。これはMO-1株のべん毛が複数のべん毛を一つの鞘の中に束ねたユニークな構造によるものである。Wu博士の研究室から学んだMO-1株の培養条件に工夫を重ねて改善し、2つのべん毛の束を持つ細胞や単離したべん毛を急速凍結し、FEIのTitanKriosと呼ばれる低温電子顕微鏡を用いて低温電子線トモグラフィーによる立体構造観察を進めた。急速凍結試料の作成条件を丹念に探索した結果、目標とする構造部分の立体像が効率よく得られるようになり、7本のべん毛が束となって一つの鞘に包まれ、べん毛繊維間を数多くの細いフィブリルが埋めている様子が観察された。界面活性剤などにより細胞膜を可溶化して細胞から単離したべん毛基部の試料の電子顕微鏡観察では、7個のべん毛基部体が六方格子状に規則的に並び、べん毛基部体より小さなフィブリルの基部体がその六方格子の格子点間に存在することを発見した。その構造は、筋細胞の筋原繊維に見られる太いミオシン繊維と細いアクチン繊維が形成する高次構造にそっくりで、大腸菌の10倍にもおよぶ高速遊泳の秘密は、この7連結の回転エンジンによるものであることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は培養も困難で、べん毛モーターを単離して電子顕微鏡で観察することさえも困難であると思われたが、培養条件の工夫により試料調整の方法も確立し、十分な量の電子顕微鏡観察試料が得られるようになったため、7つのべん毛モーターが並列に連結し、その間をフィブリルの基部体がつなぐという、極めて特殊な高次構造を有するMO-1株のべん毛基部の構造を明らかにできた。細菌におけるこのような高次構造の存在はだれも予測しなかったものであり、当該研究員のたゆまぬ努力と、実験結果をていねいに考察して次の実験計画を練る慎重な研究姿勢によって得られた成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
Juanfang Ruan研究員については、当研究室の別の研究費にて最低1年間は雇用を確保し、現在得られている実験データをより明確かつ説得力の高いものにするべく研究を継続し、結果をまとめてインパクトの高い成果とし、国際学術誌に発表の予定である。
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Research Products
(3 results)