2009 Fiscal Year Annual Research Report
アルフレッド・ジャリの言語論の総合的研究――未公刊草稿の検討を中心に
Project/Area Number |
09J00021
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
合田 陽祐 Sophia University, 文学部, 特別研究員(DC2)
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Keywords | アルフレッド・ジャリ / 言語論 / 象徴主義 / アンリ・ベルクソン / 草稿研究 / 精神医学 / 19世紀末 / フランス |
Research Abstract |
2009年度に実施した研究の成果は、主に国際会議での2回の発表と3本の論文にまとめられた。アルフレッド・ジャリの特徴は、理論化を行う際、精神医学や哲学の理論に頻繁に言及する点にある。この身振りが重要なことは明らかだが、言及の仕方が恣意的なため、どの箇所が典拠なのかは捉え難い。この難点を解消するため、彼が残した未公刊草稿『アンリ・ベルクソン哲学講義』(1891-93)の分析を行い、明示的・暗示的を問わず各理論の出典を明らかにし、ジャリがそれをどう機能させているかを検討した。具体的内容に移ると、「心理学講義」からの参照を、「無意識論」と「幻覚論」に区分することからこの作業を始めた。無意識論で参照されるのは、T・リボーやイギリスの観念連合説であり、それは間テクスト性の詩学の理論化に活用されている。この詩学は同時代のロートレアモンにも見られるが、ジャリの独創性は、その実践だけでなく理論的言説を構築した点にある。他方、幻覚論ではH・テーヌ、ライプニッツやA・モーリーの理論が参照されるが、ジャリはそれらを作品解釈論や言語コミュニケーション論に加工している。その特異性は、象徴主義の言語論(記号、暗示やポリセミー)を踏まえて、精神医学の理論を変形していることにある。これは「哲学史講義」からの参照にも言えることで、ジャリはマラルメの詩的実験を踏まえつつ、「クリナメン」概念を、作品から解釈しうる「偶発的な意味の廃棄」という主題に接続している。以上の研究の意義は、シュルレアリスム以前に、すでにジャリが精神医学の議論を作品理論に応用していたこと、そしてそれが象徴主義の言語論を踏まえた上での作業であること、というまったく新しい2つの側面を明らかにしたことにある。これにより、19世紀末の「知」の文脈にジャリを位置づけて研究する重要性を示せたと確信する。
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