Research Abstract |
本研究では,アクチンフィラメントの分子構造ダイナミクスを解析することにより,力学・生化学的因子がアクチン細胞骨格の再構築機能に及ぼす影響を解明することを目的としている.本年度は,申請書に記載した年次計画に対して,力学的因子として張力を考慮したアクチンフィラメントの分子挙動に着目し,分子動力学法を用いた挙動解析を行った.力学的因子がアクチンフィラメントの分子挙動に及ぼす影響を解明するため,第一に,基本的なフィラメントの変形を理解する上で不可欠であるフィラメントの剛性を評価することが望まれる.そこで,フィラメントの構造ゆらぎから,アクチンフィラメントの引張,ねじり剛性評価した.結果として,構造ゆらぎの時間スケールが剛性に大きな影響を及ぼすことが示唆され,同時間スケールが約10ナノ秒と長い時,本シミュレーションにより得られた剛性は,一分子実験により測定された値とほぼ一致することが明らかとなった.次に,張力がフィラメント二重らせん構造のねじれ角に及ぼす影響について検討した.その結果,張力を負荷することで,フィラメント半周期構造に約0.2%のひずみが生じ,同時に,同構造のねじれ角が,約30deg減少した.一方,切断タンパク質であるコフィリンは,フィラメントのねじれ角を増大させることから,張力は,アクチンフィラメントに対するコフィリンの結合を阻害する可能性が示唆された.また,張力作用下,および,無負荷状態におけるアクチンフィラメントの分子構造のゆらぎに着目し,先述した剛性評価の手法を用いて,同構造の剛性を評価し,これらを定量的に比較検討した.その結果,張力を作用することで,フィラメントの構造ゆらぎは減少し,フィラメントの引張,および,ねじれ剛性が増大することが明らかとなった.これは,フィラメント分子構造内部のエネルギ状態が変化したことが一因であることが示唆された.
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