2010 Fiscal Year Annual Research Report
学習のメディアとしての物語―談話焦点と物語構造に基づく最適学習条件の探索―
Project/Area Number |
09J00336
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井関 龍太 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | テキスト理解 / 物語構造 / 談話焦点 / 物語 |
Research Abstract |
本研究計画は,物語文章の中に学習事項を埋め込むことによって,学習の意図なしに学習を促すことができるという事実に着目し,このような物語を通しての学習の効果をさらに高めるための最適条件を探ることを目的としていた。三年目に当たる本年度は,物語文中の因果関係と談話焦点の関係性についての検討を行った。物語理解過程に関する研究によれば,物語は目標とその充足を中心とする因果構造を中心に構成されており,読み手はその因果構造に沿って情報を処理し心的表象を構築する。一方,物語内容とは関わりなく,繰り返しや強調表現を用いることによって,文章の特定の部分のみを強調するものとして談話焦点の効果がある。これらの物語構造と談話焦点の効果を学習に生かすには,両者がどのように関わりあっているのかを明確にする必要がある。 談話焦点と物語構造の相互作用の過程を調べるため,動詞の持つ潜在的因果性について検討した。潜在的因果性とは,動詞の意味が文の述べるイベントの原因とみられる対象に偏りを生じさせる性質をいう。これまで,潜在的因果性によるバイアス効果は,動詞の表す行為の原因と思われる対象が談話焦点に入りやすくなることによって生じるという説と,談話焦点とは関わりなく最終的な文解釈の際に様々な情報を統合することによって生じるという説が提唱されてきた。本研究では,観察可能な具体的行為を表す行為動詞("もてなす""罰する"など)と観察不能な内的状態の変化を表す状態動詞("驚かす""憎む"など)について,それぞれが談話焦点とどのような関係にあるのかを実験的に検討し,これらの仮説からその結果を解釈することを試みた。 一連の実験研究の結果から,談話焦点と物語構造の間に相互作用的な関係がみられるかどうかは,動詞の種類によって異なることが示唆された。この新規な結果の信頼性,妥当性を裏づけるための研究が最終年度の課題として残された。
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Research Products
(3 results)