Research Abstract |
偏微分方程式の逆問題に取り組む際には,しばしばそれぞれの方程式に対応する基本解の評価が必要となる.この基本解の評価に関する研究は,偏微分方程式の逆問題に限らず,偏微分方程式の基本的な問題の一つでもある. 不連続係数を同定・再構成する逆問題の場合,扱う方程式の係数は不連続となるが,一般のL^∞関数を扱う必要はなく,区分的に滑らかな係数を扱えば十分であることが多い.一方で,楕円型方程式の場合,係数を一般のL^∞関数にすると,対応する方程式の解は必ずしもC^1級の滑らかさを持たないが,係数を区分的に滑らかな関数に限れば,対応する方程式の解は少なくともC^1級の滑らかさを持つことが知られている(後者はLi-VogeliusやLi-Nirenbergの結果である).そこで,放物型方程式に対しても同様の考察を試みた.特に基本解について考えた. 放物型方程式に対しては,係数が滑らかであれば基本解の空間微分の各点評価は既によく知られている.しかしながら,係数が区分的に滑らかな場合は,基本解自身の各点評価は良く知られているものの,基本解の空間微分の各点評価は余り分かっていない.そこで,今年度は,係数が「区分的に滑らかな」放物型方程式の基本解の「空間微分」の各点評価について研究した.今年度得られたのは,空間が3種類の媒質からなる層状の媒体で埋められている場合の放物型方程式の基本解の空間微分の各点評価である.特に,その評価に現れる定数が層の幅に依らずにとることができる,という点は強調すべき点である.今後は,より一般の場合,即ち層状に限らず,係数が区分的に滑らかな放物型方程式に対しても,基本解の空間微分に関して,同様の評価が得られることを示すべきである(そして,今年度の結果はこれが可能であることを示唆していると思われる)と考えており,現在その件について研究中である. 尚,一方で和田出秀光氏と臨界冪Sobolev空間に関する研究も行った.
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